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プレーオフ新ルールの「悩ましさ」 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2007/09/19 00:00

プレーオフ新ルールの「悩ましさ」<Number Web> photograph by AFLO

 シーズンも2週を残すのみとなった時点でこの原稿を書いている。ア・リーグの場合、プレーオフ出場の可能性があるチームは、レッドソックス、インディアンズ、エンゼルス、ヤンキース、タイガースの5チームに絞られたと、いってよいだろう。

 すでに、プレーオフに向けた虚々実々の駆け引きは始まっているのだが、ア・リーグの場合、今季から採用された新ルールが、大きな影響を与えると関心を集めている。この新ルール、「レギュラーシーズンで最高勝率を上げたチームが、地区決定戦のスケジュールの選択権を持つ」というものだが、何故、戦略上重要な意味を持つのか、以下に説明しよう。

 今季、ア・リーグ地区決定戦のスケジュールは以下の2種類となっている。

 スケジュールA:第1・2戦(休み)第3・4戦(休み)第5戦の計7日間

 スケジュールB:第1戦(休み)第2戦(休み)第3・4戦(休み)第5戦の計8日間

 一見大きな違いはないように見えるかもしれないが、スケジュールBは5試合の間に休日が3回はさんであるので、2人の投手が、通常の中4日の登板間隔で2回先発することが可能となっている。たとえば、インディアンズの場合、ファウスト・カルモナ(防御率3.07はリーグ1位)、C・C・サバシア(同 3.21はリーグ7位)と、強力なエース2人を擁しているが、対戦相手としては、5試合のうち、4試合もこの2人が出てくるようなスケジュールでは戦いたくない。

 9月16日時点で、最高勝率を保持するのはレッドソックスだが、対戦相手がインディアンズとなった場合、スケジュールAを選ぶことで、カルモナ、サバシアの2人と2回ずつ対する危険を避けることができるのである。逆に、ワイルドカードでヤンキースが進出することになり、その対戦相手がインディアンズになった場合、レッドソックスは、自分たちがスケジュールAを選ぶことで、宿敵ヤンキースに、カルモナ、サバシアと計4回対戦する可能性を押しつけることができるのである。

 さらにヤンキースがワイルドカードで進出した場合、新ルールとのからみで考えなければならない要素は「ジョバ・ルール」である。ジョバ・ルールとは、新人投手ジョバ・チェンバレインの酷使を避けるために、投球イニング数に応じて登板間隔を空ける(1イニングで中1日、2イニングで中2日、…)とするものだが、ヤンキースがスケジュールBとなった場合、チェンバレインを最大4試合使うことが可能となる。絶対的な力を持つ新人救援投手がポストシーズンの帰趨に大きな影響を与えた例としては、2002年、エンゼルスのワールドシリーズ優勝に貢献したフランシスコ・ロドリゲス(K―ロッド)の活躍が記憶に新しいだけに、チェンバレインの存在は戦略決定上無視できないのである。

 MLBがこの新ルールを決めた理由は、ワイルドカードでプレーオフに進出したチームがリーグ選手権やワールドシリーズに勝つ例が「多すぎる」ことにあった。レギュラーシーズンでたくさん勝ったチームに、何らかの報償(=好条件)を与えたいと、この新ルールが考案されたのである(このルールは、日程の都合上、1年、1リーグにしか適用できず、来年はナ・リーグに適用される)。

 新ルールによると、スケジュールの選択は、どのチームが最高勝率チームになるかが決まった後、1時間の間にされなければならない決まりとなっている。どのチームが選択権を持つことになるにせよ、スケジュールについての決定を下す時点で、どこが対戦相手になるかまだわかっていない可能性は高く、悩ましい1時間となることは間違いなさそうである。

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