リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
本当に92億円の価値はないのか?
レアルの「カカ不要論」を検証する。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2011/03/13 08:00
太ももの負傷で、再び戦列を離れることになったカカ。モウリーニョは、「メディカルスタッフは完全に復調してから復帰させた方がいいと判断しており、私もそれに賛成だ」とコメントしているが……
カカを起点としたパスワークが攻撃にリズムを与える。
互いの距離を開き過ぎずにボールを運べることで、たとえボールを失ってもすぐさま複数の選手でボールを奪い返しに行くことも可能となる。結局、前半45分間のほとんどの時間がソシエダ陣内で展開されることになった。
この試合では、カカのパスを引き出す動きとシンプルなボールさばきによってレアル全体のバランスが整い、それまでのレアルにはなかったスタイルが実現していたのだ。
今シーズンでも露呈しているように、レアルはコンパクトに守ったチームに対し、攻めあぐねることが多い。セットプレーや突発的なカウンターによって先制した相手に対して実力で勝るレアルが逆転勝ちすることも多いが、自らが先制できないまま、相手も守備を固めた状態だと攻撃までが単調になり、引き分けに持ち込まれたり敗れてしまうこともたびたびあったのだ。
現在、リーガ27試合を戦って21勝4分2敗、勝ち点は67。決して悪い成績ではないが、リーガにはバルセロナがいる。そのバルサは24勝2分1敗、勝ち点74。リーガを制するには、今以上に勝ち点の取りこぼしを少なくする必要がある。
そのために必要なのが、カカを中心として実現したソシエダ戦のスタイルなのだ。
カカがもたらす攻撃の変化は守備にも好影響を与える。
ディマリア、C・ロナウドらの縦の突破力を基盤としたレアルの攻撃力は確かに脅威だ。しかし、彼らのインスピレーションに依存し過ぎ、複数の選手が連動してボールを運ぶ精度が低下した時のレアルは、ボールを失った際、高い位置からのプレスが掛からない状況を招く。
もちろん、ソシエダ戦のように相手陣内で試合を展開する時間を長くすることができれば、敵もゴールから遠ざかり、失点の危険性も低下する。
言い換えれば……これまでのレアルは相手陣内で試合をコントロールする力に欠けていたのだ。また勝ち点7差となって表れている首位バルセロナとの差とは、相手陣内で試合をコントロールする力の差だと言えるのではないか。
モウリーニョがカカの力を上手く引き出せるようになったとき、レアルはこれまでになかった攻撃のオプションを手にできる。
引いた相手に対し、個人の突破だけに頼るのではなく、緩急をつけたパスサッカーによって相手陣内で試合を展開してゴールを狙う。それは守備を重視するモウリーニョがこれまでになかった守備力を手にすることにもなる。
サッカーは攻守が表裏一体となっている競技だ。カカによってもたらされる攻撃の変化は、同じように守備にも変化がもたらされることを意味している。