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本当に92億円の価値はないのか?
レアルの「カカ不要論」を検証する。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2011/03/13 08:00
太ももの負傷で、再び戦列を離れることになったカカ。モウリーニョは、「メディカルスタッフは完全に復調してから復帰させた方がいいと判断しており、私もそれに賛成だ」とコメントしているが……
2009年夏に新銀河系の目玉としてレアル・マドリーへやってきたカカ。しかし、入団から1年半が過ぎた今、彼は来夏の放出候補に挙げられている。
レアル1年目の昨シーズン、カカはシーズン中盤までフル稼働し、ケガでC・ロナウドを欠いていたチームを牽引した。だが、そこで蓄積した疲労から左膝を故障。シーズン終盤を棒に振り、南アフリカW杯の後には手術を受けた。
約5カ月のリハビリを経て、1月3日のヘタフェ戦で復帰を遂げたものの、3月6日のラシン戦の前に再び戦線から離れることとなった。
周囲が彼に期待しているのは、ACミラン時代に見せた圧倒的な突破力と得点力だ。その能力のために、フロレンティーノ・ペレス会長は、6800万ユーロ(当時のレートで約92億円)もの大金をつぎ込んだ。
「ミラン時代の輝きを取り戻せないのなら、4000~5000万ユーロは払うであろうチェルシーやマンチェスター・Cに売るべきだ」
地元メディアの報道では、そんな雰囲気が高まっている。AS紙が行なった「カカは売却すべきか?」というアンケートでは、70%が「売却すべき」に投票している。
かつての爆発力は失ったが、カカには別の武器がある。
確かに、レアルに来てからのカカはかつてのような爆発力を失っている。しかし、だからといって本当に彼を放出すべきなのだろうか。かつての爆発力はなくとも、彼には別の武器があるのではないか。
カカは積極的に狭いスペースに入り、正確にボールをコントロールし、各選手をつなぐ役目を高精度でこなすことができる。この能力にこそ、モウリーニョ率いるレアルが直面している現在の問題に、真の解決をもたらす可能性が秘められているはずなのだ。
例えば、カカが先発に復帰してから3試合目のレアル・ソシエダ戦(2月6日)のこと。この試合のレアルは前半だけで3ゴールを奪い、試合を決めている。
サンティアゴ・ベルナベウに乗り込んだソシエダは、自陣で守備を固めていたにもかかわらず、レアルは変幻自在にボールを動かしてソシエダ守備網を揺さぶり続けた。
その中心にいたのが、カカだった。
守備的MFのシャビ・アロンソ、ラサナ・ディアッラのいずれかがボールを持つと、精力的にスペースへと走り込んだ。そのカカにボールが渡ると、もう一人の守備的MFがカカからパスを受けやすいポジショニングを取り、それに連動して、両サイドバックも次のパスを受けやすいポジショニングを取るようになった。
こうして、互いの距離が開きすぎることなくボールをペナルティエリア付近へと運んだレアルは、そこにエジル、C・ロナウド、アデバヨールが絡んで、ソシエダ最終ラインを崩し切った。