プレミアリーグの時間BACK NUMBER
想定外の強固な守備でミランを撃破!
トッテナムの快進撃はどこまで続く?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAP/AFLO
posted2011/03/19 08:02
ミランのエース、ズラタン・イブラヒモビッチ(右)に決定的な仕事をさせなかったトッテナムのセンターバック、マイケル・ドーソン(左)。試合後、「僕らはとても攻撃的だけど、今日は違う一面を見せた」とチームの守備を称えた
『スパーズの行進』―─トッテナムがACミランとスコアレスドローを演じた3月9日のホワイト・ハート・レーンには、『聖者の行進』のメロディに乗せて「スパーズが行く!」と歌うファンの大合唱が響き渡った。魅力的な攻撃サッカーを信条とするクラブのホームが、0-0で歓喜の坩堝と化した。
それもそのはず、この日のスコアレスドローは、CL決勝トーナメント1回戦でミランからの勝利(2試合合計で1-0)を意味していたからだ。CL初参戦にして準々決勝進出。欧州最高峰の大会での8強入りは、前身にあたる“ヨーロピアンカップ”時代から起算しても、129年間のクラブ史上で2度目という快挙だ。しかもトッテナムは、ハリー・レドナップが監督に就任した2年半前の時点では、プレミアリーグの最下位に落ちていた。指揮官が「不可能と思われた夢が実現した」と語るのも無理はない、歴史的な一夜だったのである。
攻守において隙のないトッテナムの強さは本物である。
更に、ミランとの第2レグは、現在のトッテナムが、勢いだけのチームではなく、本物の強さを備えた集団であることが確認されたという点においても、ファンの喜びは格別だったに違いない。
無失点での引分けは、戦前のプランに沿った結果ではなかった。しかし、だからこそ、逆に意義がある。そもそもトッテナムは、守ろうと思って守れるチームではない。試合後、「点も取るが失点もするのが通常のパターンなのだが」と苦笑したレドナップの発言は、謙遜ではなく本音と理解してよい。
事実、第2レグの布陣からは、初戦でピーター・クラウチが奪った虎の子の1点を守るのではなく、追加点を狙う意識が強く感じられた。システムは今季前半で基本に定着した4-4-1-1。トップ下で、3週間ぶりに怪我から復帰したばかりのラファエル・ファンデルファールトが先発起用されたことも、攻撃意欲の表れと受け取れた。前半5分には、ルカ・モドリッチによるサイドチェンジから好機が生まれ、ハーフタイム直後にもアーロン・レノンがクロスを放り込んだ。60分過ぎには、背中の痛みで先発を外れたガレス・ベイルも投入された。指揮官が積極的な姿勢を貫こうとしていることは明らかだった。