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「監督の歩き方がカッコいいなと思って」日本ハム・伊藤大海が“歩き方”まで変えたワケ…新庄剛志監督にボソッと告げられた“二人だけの約束”
posted2025/04/01 11:01

今や日本ハムのエースとなった伊藤大海に新庄剛志監督が告げた“ある約束”とは
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
SANKEI SHIMBUN
新庄監督に「来年、開幕いくから」
23年9月25日、伊藤大海はエスコンフィールドでのゴールデンイーグルス戦でシーズン最後の先発に臨もうとしていた。試合前、外野で準備をしていると新庄剛志が歩み寄ってきた。伊藤は両肩に手をかけられ、こう告げられた。
「来年、開幕いくから。今日はそのつもりで最後までひとりで投げてくれ」
意気に感じた伊藤は8回まで119球を要しながら1失点で粘り、9回も続投した。だが、安打と四死球で瞬く間に満塁のピンチに陥り、さらに打ち込まれてイニングを全うすることなく降板した。
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すると、ベンチから飛び出して出迎える新庄から声をかけられた。
「よくやってくれた」
9回途中6失点KO……。ねぎらわれたことで、ふがいなさが募った。
「『7、8回投げてゲームを作れればいい』と考えていたのがいままでの中途半端な自分でした。そこをなんとか打破したいと思うようになったのが、カッコ悪い姿をみせてしまった、あの試合だったんです」
先発陣には5学年上の加藤貴之や4学年上の上沢直之がいた。
年齢も実績も上の先輩の背中にただついていくだけでよかった。
だが、この年は7勝止まりにも関わらず、新庄から開幕投手に指名されたのだ。
立場が人を変える。伊藤は大役を託されたことで、自覚を持ち、緊張感を保ちつづけた。なによりも過去の自分と決別するチャンスだととらえていた。
エスコンフィールドのクラブハウスには、ミニシアターのようなミーティングルームがある。黒革張りのチェアが4段になって並ぶ。試合前のミーティングが始まる前、伊藤はだれよりも早く部屋に入り、最前列に座るようになった。
「はじめは無理やりでもいいから、最初に動こうとイメージしてきたんです。自分を大きく変えることはすごく難しいことでしたが、恥ずかしさを一切持たず、最初に行って一番前に座ろうと」
歩き方まで変えて…手本となった人は?
伊藤の朝は早い。デーゲームが行われる日は7時に自宅を出て、早々にエスコンフィールドに着く。開幕投手に指名されてから練習前の散歩を日課にしたのだ。球場周りのバックヤードのコンコースを約40分、飲食店スタッフらが働くなか、歩きつづけた。あるとき、ふと気づいたことがあった。