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「抜き打ち検査は本当にランダム」高梨沙羅も苦しんだ“規定違反”に金メダリスト・船木和喜の意見…「情報伝達が遅い」日本スキージャンプ界の問題点
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byWataru Sato
posted2025/03/04 11:03

今も現役を続ける五輪金メダリスト・船木和喜(49歳)が考える、スキージャンプ界のルール改正
あわや失格…“情報伝達”という論点
例えばスーツは通気量が定められているが、このような出来事もあった。
2006年のトリノ五輪ではスーツに国旗と「JAPAN」の文字がプリントされていた。熱圧着でとりつけているため通気性が悪くなるが、国旗と国名はチェックの対象外だと考えていた。
だが五輪直前、日本が参加していなかったワールドカップの場で製造メーカーのマーク以外はチェック対象とすることが明かされる。それを日本は把握していなかった。
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日本は急遽ミシンで国旗と国名の部分に穴を空けて対応したという。あわや、選手が失格となるところだったのだ。
船木の先の話と合わせれば、ルール改正に関する情報伝達の遅さが浮き彫りになる。
「そこは国の上層部同士がつながってないということじゃないですか。また、ジャンプはドイツ語の中でやっているので、選手に伝わるのはきちんと日本語に翻訳してからになってしまいます。その伝達も、国内全部にすぐ広まればいいのですが、そういうわけではないので」
高梨沙羅の“スーツ規定違反”に船木の意見
ルールの問題と言えば、2022年北京五輪の混合団体で、高梨沙羅が1回目のジャンプ後の抜き打ち検査を受け、スーツの規定違反により1回目が失格となった件は大きな騒動となった。
測定方法がいつもと異なっていたと語る海外の選手がいたこと、全選手を対象としない抜き打ち検査というあり方、高梨がなぜその対象になったのかという疑問などが渦巻いた。
混合団体に参加したのは10チーム。つまり男女合わせて40名が出場した。10チーム中上位8チームが2回目に進む形式で行われた。
40名の選手中、1回目のジャンプが終わったあとに抜き打ち検査を受けたのは30名近くに及んだ。そして高梨を含め5名の選手が失格処分を受けた。
船木が知人の検査員に問い合わせると、少数の選手が対象だったわけではなく、「40名中27名が検査の対象となった」ことを聞いたという。だから北京五輪については「検査に関しては公平に行われたと思っています」と語る。そして「高梨選手が表に出て喋れないのも理解できます」と付け加えた。