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〈阪神〉星野仙一“非情24人リストラ”の舞台ウラ…汚れ役の“嫌われた元控え捕手”が「オレには悪いヤツに思えん」の言葉に号泣した日
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江本孟紀Takenori Emoto
photograph byJIJI PRESS
posted2025/02/24 06:00

阪神時代の02年、20人超ものリストラを敢行した星野仙一監督。その裏にあった嫌われ役の存在とは
「みんなが『黒田は悪いヤツ』というが、オレには悪いヤツには思えん。それに今はタイガースの編成部長としてがんばっている。みんなでタイガースをよくしなければならないときに、個人的にはどう思っていてもいいが、表面上には絶対に悪い感情を出すなよ」
号泣した黒田に託された“非情の24人リストラ”
こう田淵さんと話をした後、今度は黒田を呼んで、
「いいか、オレは今までのことは知らん。すべて忘れてやる。お前さんの評価は、今後の結果でオレが決めていく。これからはチームのために身を粉にして働いてくれ」
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すると、黒田の目からポロポロ涙がこぼれた。腹を割って話してくれたことがうれしかったのだろう。
この話をしてから1年後、黒田の仕事がやってきた。それが24人のリストラだった。
「戦力として見込めない選手を置いておいても仕方がない」というのが星野さんの考え方だ。中日時代、谷沢を切ったとき以上の非情さを見せた。過去の実績あるなしに関わらず、「来季は難しい」と判断した選手をすべて切った。そのなかには、野村監督時代に活躍した遠山奨志、弓長起浩、伊藤敦規らの名前もあった。
リストラ通告するのは損な役回りである。ときには相手から恨まれることだってあるだろう。だが、黒田にしてみれば、星野さんは過去のことを一切水に流し、自分の生かし場所を見つけてくれた恩人である。通告した選手から何を言われようと、徹底的に汚れ役に徹し、大リストラを貫徹させた。
嫌われ者の評判でも「仕事ができる」点を買った
星野さんのすごいところは、自分と合わない、あるいは過去に評判の芳しくない人間であっても、「この男は仕事ができる」と見込んだら、平然と起用できる度量の大きさにある。人間、誰でも人に対して好き嫌いはあるだろうし、自分に合わない人間が部下ともなれば、遠ざけようとしたって不思議な話ではない。
だが、星野さんはそうしなかった。