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「星野仙一監督が鉄拳制裁説」中日批判記事を書いた記者は翌日、監督室へ…江本孟紀が聞いた生々しい話「そこが星野さんのスゴさとしたたかさ」
posted2025/02/23 17:03

闘将と鉄拳制裁のウワサ。中日時代の星野仙一監督についての逸話とは
text by

江本孟紀Takenori Emoto
photograph by
Kazuhito Yamada

鉄拳制裁説は僕の耳にも入ってきた
「星野監督は選手に鉄拳制裁をしているんじゃないか」――。
当然、僕の耳にもその情報は入ってきた。だが、こればかりは中日の選手に聞いたって口をつぐむだけだし、本当のことを言うはずがない。事の真相を確かめようにもその方法がなかった。
一部の夕刊紙では、星野さんの鉄拳制裁の一部始終をあたかも本当かのように書き上げている記事も目にしたが、これとてどこまで信ぴょう性の高いものか、私の仲のいいサンケイスポーツの記者連中も懐疑的に見ていた。
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だが、あるとき星野さんの鉄拳制裁が真実だということが判明した。証言者は当時、ヤクルトの正捕手だった古田敦也である。
古田の証言はこうだ。
神宮球場での中日との試合。古田がマスクをかぶっていると、中村武志がバッターボックスに立った。中村は1984年に星野さんの大学の後輩である竹田光訓の外れ1位として入団したものの、86年には解雇寸前だった。それを星野さんが拾ってどうにか才能を開花させて、中日の正捕手の座をつかみとった。
その中村がファールを打った直後、突然「タイム」をかけてベンチに戻っていった。塁上にランナーがいるわけではないし、中日が5点リードしている。とくにタイムをかけてまでサインの確認を行うような場面でもないのに、いったいどういうことだろう? と不思議に思って中日ベンチを見ていると、そそくさと中村が下を向きながらバッターボックスに戻ってきた。
その直後――古田はわが目を疑った。中村の鼻の穴から、2本の赤い線がツーッと流れ落ちていたからだ。
問題なのは「記事に書くべきかどうか」
実は新聞記者たちだけでなく、他チームの現場の選手らも、「星野監督が鉄拳制裁をしているのではないか」というウワサは耳にしていた。