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「星野仙一監督が鉄拳制裁説」中日批判記事を書いた記者は翌日、監督室へ…江本孟紀が聞いた生々しい話「そこが星野さんのスゴさとしたたかさ」
text by

江本孟紀Takenori Emoto
photograph byKazuhito Yamada
posted2025/02/23 17:03

闘将と鉄拳制裁のウワサ。中日時代の星野仙一監督についての逸話とは
だが、当事者である中日の選手に聞けるはずがないし、そんな話を口外しようものなら、後で何が待っているのかを想像したら、たまったもんじゃない。
結局、中村は凡退し、その回の中日の攻撃は無得点で終わったのだが、ベンチに戻ってきた古田は青白い顔をして、当時の監督である野村さんに一部始終を報告したそうだ。
私たちも試合後になってからこの話を聞いたのだが、問題なのは、「鉄拳制裁をしていることを記事に書くべきか」だった。中日のおひざ元の中日新聞、中日スポーツはハナからそんなことを書く気がなかったが、在京のスポーツ紙は書くべきか、伏せるべきか相当迷っていた。
遠回しに盛り込んだ記者は翌日、監督室へ
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そんな折、サンケイスポーツの記者が星野批判の記事を書いた。そこに遠回しに鉄拳制裁の内容も盛り込んだ。これを読者、ひいては中日ファンはどう思うのだろうか――。
ほどなくして、その記事を書いた記者が中日球団から呼び出された。
呼び出した主は星野さんである。
記者が監督室に入ると、ソファには腕組みした星野さんが、じっとスポーツ紙をにらんで座っている。
あっ、オレが書いた記事だ――。
そう思った矢先、星野さんが顔を見上げて記者をにらみつけると、こう言い放った。
「おい、この記事はどういうことだ?」
一言ひとこと噛みしめるように話す口調のなかに、怒気が含んでいるのがわかる。
「もうええわ」
記者はただただ黙ってうつむいていると、星野さんはそれ以上の言葉は口にしない。
まずい。ひょっとしたらオレ、殴られるんじゃないか――。