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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「打っているのに、全然気持ちよくない」井上尚弥がキム・イェジュンの連打を“受け止めた”真意…怪物と最も拳を交えた男が解説「ネリ戦もそうですし…」
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森合正範Masanori Moriai
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/01/28 11:00
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1月24日の試合で、キム・イェジュンの顔面をとらえる井上尚弥
「引き出しの多さ」があらためてわかった試合
――井上選手もスパーリングでイメージをつくっていくタイプですよね。
「(ジェイソン・)モロニー戦のKOパンチとか練習段階でやっていたことがどんぴしゃでしたから。スパーとミット打ちを反復して、やってきたことを試合に出すイメージが強いです。タパレス、ネリ、ドヘニーと3試合連続サウスポーだったので、今までの延長線上だと考えたのではないでしょうか。これまで積み上げてきたもので闘い、ぶっつけ本番ではないように見えた。井上選手の引き出しの多さがあらためてわかりました」
――と言いますと?
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「自分から体勢を低くしたり、ジャブも下から払うように打ったり、上から被せるように打ったり、相手のポジションによって左を変えて打っていましたね。今まで積み重ねてきたことがいつでも出せる。いきなり右から入るとか、前足が相手の内側にあったとしても、しっかり外側に踏み込んで打っていたり、対サウスポーのボクシングが確立されていますよね。その踏み込むタイミングも相手の呼吸をしっかり見て、打っていたと思う」
――対戦相手の呼吸まで意識するんですね。
「呼吸で、相手が来ないという感じがわかる。ここでいけば当たるとか。僕はそれが井上選手の言う『当て勘』だと思います」
――相手変更による「感覚のずれ」みたいなものはありましたか。
「2ラウンド目の左ストレートをもらった場面でしょうか。井上選手は左フックのカウンターを合わせようとしていたように見えたんですが、この数カ月グッドマン用に練ってきて、それがサウスポーに変わった。キム選手はタイプも違いますし「ずれ」があったと思います。それと、相手が直前に変わったこともあって、ディフェンスも安全策というか、ブロッキング中心でしたね」
「井上選手のブロッキングって、打っている方が嫌になる」
2ラウンド中盤や3ラウンド1分前後に、キムが放つ細かい連打を井上が足を止めてブロックするシーンがあった。
――ブロッキング中心の意図は。
「もっとステップを使うかなと思ったんですが、勝利者インタビューでも『リングの上で確認していた』と言っていたように、自分の体をものさしにして、相手のパンチが届く距離を測っていたのかなと。ネリ戦のKO前もそうですし、河野(公平)さんと対戦したときも、あえて打たせてブロックしていました。そこで相手の距離やここにいたら当たるとか、パンチのタイミング、どこで割って入れば当たるかを自分の体をものさしにして測っているイメージがあります」
――あえて打たせることで情報収集すると。
「それに、井上選手のブロッキングって、打っている方が嫌になるんです。ディフェンスで仕方なくブロッキングしているのではなくて、分かった上でやっている。だから、叩いているんですけど、全然気持ちよくないというか、リズムに乗れる感じがしない。よく『ガードの上からでも叩けばリズムが出る』と言うじゃないですか。でも、それがまったくないんです。気持ちよくない。これ以上やり続けても、割って入られるだろうな、と打っている方も分かるというか……」