箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
青学大を激変させた“ある男”の一言「箱根駅伝で戦うチームが、このレベルなの?」部員は疑問「ちょっと心配です」こうして青学大は常勝軍団になった
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakashi Shimizu
posted2025/01/24 11:01
青山学院大が箱根駅伝初優勝を果たした2015年。当時の練習風景
「みんな、ランニング・フォームが良くなってる。ブレないし、安定してきた。正しい方向に進んでたんだ」
時間が経つにつれて、実績のある選手たちほど「トレーニング上手」なことが分かってきた。ポイントは、正しい部分を、正しくトレーニングできるかどうかにかかっていた。うまいな、と思う選手は主将の藤川拓也、1年生から箱根駅伝を走った経験を持つ久保田和真、一色恭志といった選手たちで、効果を実感できるから、より高度なトレーニングに進むことが可能になった。自分の体の使い方を知っているからこそ、競技実績を挙げてきたのかもしれない。
下級生も上に意見を言える“場”
怪我でリハビリに取り組んでいる選手にも、中野はこれまでとは違ったメニューを組んでくれた。数日でも早く復帰できれば結果は大きく違ってくる。故障明けも、弱い部分を補強するトレーニングメニューを用意できる。
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「もしも、自分が怪我をしているときに、中野さんのトレーニングに出会えてたら――人生が違っていたかもしれないな」
と思うこともあった。
誰といつ出会うのか。そのタイミングで人の進む道は変わってしまう。1年生の時ではなく、4年生というタイミングで中野と巡り会えたのも、何かの縁だったのだろう。
高木がもうひとつ力を入れたのは「目標管理ミーティング」である。
もともとは原が会社員時代の経験をもとに、学生たちに月ごとの目標を立てさせてシートに記入し、それをもとにグループで話し合う場を作った。しかし、時間が経つにつれて頻度が落ち、形骸化していった。好記録を持っている選手に対し、故障者がもの申すといったことが出来なくなっていたのだ。高木はもう一度、ミーティングを活性化させたかった。
必ず月初に、平日でもミーティングを行う。これを徹底することにした。そして、高木の独断で話し合いをするグループ分けを決めた。
絶好調の人間も、故障者も関係ない。「あのふたりは、ふだんあまり話をしていないな」と思えば、わざと一緒にして話す場を設けた。グループは毎月シャッフルして、緊張感を持たせるようにした。
最初、下級生には遠慮もあったが、時間が経つにつれて、実力のある選手たちから「発見がありました」という声が出てきた。
同級生で話し合ったとしても、だいたい性格も分かっているから、余計なことを言わなくなってくる。それよりも下級生の異分子を混入させ、遠慮なく意見をいう雰囲気さえ作っておけば、上級生の刺激につながる。
青学大の選手たちが、どんな場でも物怖じせず、自分の言葉で話せるのは目標管理ミーティングや、朝食後に原のアイデアで「今日のひと言」といって、部員が持ち回りで気になる言葉を選び、スピーチをする機会を作ったことも少なからず影響していた。
春に播いた種が、秋に豊かな収穫を迎える。高木にはそんな予感があった。
〈つづく〉