プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「イチローに入れなかった26人」の理由→「好き嫌い」か、それとも…野球殿堂の権威を揺るがす「投票者非公開」に問われる“プロの記者”の矜持
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2025/01/17 17:00
野球殿堂入りし、笑顔を見せるイチローさん
岩瀬さんは有資格者となって2年目。イチローさんは今年、初めて有資格者となり、満票での選出もあるのでは、と話題となっていた。ところが投票結果は有効投票数349票中、イチローさんの得票は得票率92.6%の323票。予想外の得票の少なさにネットを中心に大きな話題となっているのだ。
「26人」がイチローに投票せず
殿堂入りの投票は、15年以上の野球報道の経験のあるベテラン記者が7名以内連記で投票し、75%以上の得票があれば選出されるシステムである。得票率92.6%で得票数323票ということは、1人や2人ではなく、26人の委員が、イチローさんの殿堂入りは相応しくないという判断をしたということになる。
となると、筆者だけでなく多くの人々も、イチローさんが殿堂入りに相応しくない理由を知りたくなるのは仕方ないだろう。しかし、現在のシステムではそれを知る方法は公的にはない。
ADVERTISEMENT
「すぽると!」の「100人分の1位」では明確に誰が誰に投票したかが分かり、なぜその1票を投じたかを聞けば選手たちが答えてくれる。しかし殿堂入りだけでなく、記者投票によるMVPやベストナイン、ゴールデングラブ賞などの各種表彰は、どの記者が誰に投票したかは明らかにされない。この不透明さが、野球殿堂だけでなく記者投票そのものの権威、信頼性をも低めてしまうことにつながっている。
“プロの記者”としての説明義務
一概にイチローさんに投票しないことが間違いだ、というつもりはない。イチローさんに入れないという判断が、無謬的に批判されるものでもない。それは15年以上の長期に渡り、野球取材をしてきた“プロの記者”としての見識による判断だったと思うし、そう思いたい。だとすればなおさら、なぜそういう判断をしたのか、を“プロの記者”として公にすべきではないだろうか。
そもそも記者投票とはその記者が単純に記者であるから、という理由で投票権を持っているのではなく、現場で長く取材をして得た経験と見識にファンの投票権を負託されたものだと思う。だから投票した記者は、自分がなぜその1票を投じたのかは、ファンに向けてきちんと説明する義務があるはずだ。
問題はイチローさんの殿堂入りだけではない。救援投手としてあれだけの実績と記録をもつ岩瀬さんも、1年目の昨年には殿堂入りができなかった。その理由も知りたいところだ。そういう事例がいくつもあるから、投票した記者名と投票先の公表は、今後の殿堂の価値、また記者投票そのものの権威を守っていくためには、絶対的な条件となるだろう。
イチローに「入れない」理由は…
“イチロー問題”に戻ると、あるベテラン記者(この記者はイチローさんに投票したと語っていた)から、「おそらくこういうことではないか」と、イチローさんに票を入れない理由を聞くことができた。