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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「いつまで現役やっとんじゃ!とヤジも…」伝説の「10・8決戦」松井秀喜に被弾した中日左腕の今→「ダメだったら潰そうと」転身したわらび餅屋が大人気
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNumberWeb
posted2025/01/16 11:05
中日の本拠地・バンテリンドーム近くでわらび餅屋を経営する山田喜久夫さん
「わらび餅屋」へ…突然の転身
山田さんは現役引退後、横浜と中日で打撃投手を務めた後、2012年に一般企業に転身した。最初はETCカードの営業の仕事に就いたがなかなか馴染めずに1カ月で辞め、途方に暮れていた時にわらび餅の販売を思い立った。きっかけは、球界関係者に挨拶回りする際に、地元で有名だった愛知・稲沢にある「町家かふぇ」のわらび餅を手土産に持っていったことだ。
「僕自身は、甘いものは特に好きじゃなかったし、和菓子に興味があったわけでもなかった。でも渡した手土産が好評で『キクちゃん、こういうのを作ることを覚えたら』と言われたんです」
それまで知ることのなかった和菓子の世界。元プロ野球選手のセカンドキャリアとしても聞いたことはなかったが、迷いはなかった。「町家かふぇ」での修行を経て、2014年3月に中日の本拠地・バンテリンドーム近くに店舗をオープンした。
「ダメだったら潰そうかと」
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「正直、最初はダメだったらすぐ潰そうと思っていました。でも作ってみたら結構美味しかった。やるからにはきちんと作ろうと思い、全て無添加の材料、手作りにこだわってきました」
毎日の作業は、早朝4時に始まる。10時の開店までに大きな鍋に火を入れて本わらび粉を練り上げていくが、ぷるぷるとした食感を生み出すためにはわずかな火加減の違いが肝になってくるのだという。
「焦がす寸前が美味しいんですよ。餅の状態を見極めながら、火の加減を調整していく。生き物ですからね。賞味期限はきな粉をつけてから3日間。保存料を入れれば伸びるんでしょうけど、やはりこの味を保つためには譲れないです」
年間5000万以上の売り上げも
10年以上商売を続けてきた中では当然、浮き沈みもあった。オープン当初は球界関係者や野球ファンの間で話題を呼び、多い時は年間5000万円以上売り上げたこともあったという。一方で、野球がない日やシーズンオフなどは売り上げも厳しい。
「我慢ですね。辞めようと思ったことは何度もありました。でも、待っているだけでは、お客さんは来ない。例えば今度バレンタインデーに向けた生チョコレートを入れたわらび餅を作るんですが、そうやって味を変えてみたり、いろいろな場所に出店してみたり……。厳しい時代ですが、試行錯誤して攻めていかなければいけないと思っています」