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青学大“若乃神”に敗れ「山はもう勘弁です」箱根駅伝5区の明暗を分けた“平地走力の罠”…駒大・山川拓馬ら“山の強者”はなぜ失速したか?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/01/11 17:02
駒澤大・山川拓馬ら、山の強者たちはなぜ実力を発揮できなかったのか。その深層を探った
その逆も然りで、2区を経験した選手が5区を走り、結果を出しているケースもある。初代・山の神の今井正人は1年目に2区を走り、2年時に5区を走って、その後「神」になった。3代目・山の神の神野大地も2年時には2区を走り、3年で5区を駆けて3代目の称号を勝ち得ている。
2区と5区には「互換性」がある
これらの結果を見ると、2区と5区にはいわば互換性があると言えるだろう。それを裏付けるように、今回5区から2区に鞍替えした吉田響が、日本人トップの65分43秒の区間新をマークした。
「2区では、20キロから22キロの地点で黒田選手に離されてしまったんですけど、最後の戸塚の壁で黒田選手に追いついて、ラスト1秒差ですけど勝つことができました。戸塚の壁のところではきつい上りということで5区のためにやってきた練習が活きたと思いましたし、5区のためにやってきたことはムダじゃなかったと思いました」
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吉田は、結果に満足そうな笑みを浮かべて、そう言った。
若林宏樹は山にすべてをかけていた
今後も5区を駆けた後、走力をつけた選手が2区を走るというケースは出てくるだろう。そうなると山のランナーは、よりスペシャリスト化していくように見える。実際、今回区間新を出した若林は、山のために肉体改造に取り組み、フォームも腕を前にスウィングして上りの推進力を高めた。平地区間は他のスピードランナーに任せ、自らは「山の神」を目標とし、山で結果を出すことだけに専心した。若林の区間新は、山にかけてきた労力と時間が生んだとも言える。今の時代、そのくらい山にすべてをかけないと結果を出すのが難しいということだ。
「走力がつけば上れると思いますが、区間新や圧倒的な上りとか高いレベルで走るにはやはり山の練習が欠かせない。私も走力だけを見て、それを過信していたところがあった。山は戦略的に育成していかないとダメだと改めて思いました」
藤田監督は、反省の意を込めてそう語った。
高い走力と山の専門性のバランスをどう取るか
平地での走力を高めていくことは競技者にとって非常に重要だが、その走力を山に活かすには、山に特化した練習で上りを磨いていかなければならない。だが、高い走力がそれに準ずると思い込んでしまったということだ。
若林のように山に集中できる選手を置ける場合はともかく、5区で結果を出すために、このバランスをどう取っていけばいいのか。山川や斎藤の苦戦は、5区の難しさを改めて各チームの選手や監督に突きつけたと言える。箱根5区は、ますます奥深く、勝つのが難しい区間になっていきそうだ。