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プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
ブーイングも喝采もなく…海野翔太に“欠けているもの”とは何か?「父が息子のIWGP戦のレフェリー…いかがなものか」新日本プロレスに抱いた疑問
posted2025/01/11 17:35
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
海野翔太への大ブーイングは起きなかった。新王者としてベルトを巻いた海野に浴びせられる非難の声を聞いてみたかったと思う。だが、ブーイングも喝采もなかった。挑戦者の海野翔太は43分余も淡々と王者ザック・セイバーJr.と戦って負けた。そんな印象しか残らない「1.4」東京ドームのメインイベントだった。
「息子のIWGP世界戦を父親が裁く」ことの是非
IWGP世界ヘビー王座がかかっているにも関わらず、海野から「奪ってやる」という意思が伝わってこなかった。海野は善戦マンにさえなれなかった。試合が終わってIWGPは遠い所に行ってしまった。
会場が一瞬大きくどよめいたのはロープ際でザックを攻めていた海野を、レッドシューズ海野レフェリーが注意し、それを海野が払いのけた時だけだった。誰もレフェリー問題に言及することはなかった。だが、ファンは見過ごしてはいなかった。
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父親が息子の試合を裁くことはプロレスでは許される、という見方もある。普通の試合や特別な引退試合でもあるならいいだろう。でも、それが団体の看板タイトルであるIWGP世界戦となると、いかがなものかと言わざるをえない。競技性を無視して、エンターテインメントの一つと割り切れば済むのかもしれないが、新日本プロレスはWWEのように「エンターテインメント宣言」はしていない。ずっと「KING OF SPORTS」を掲げているのだから。
サッカーを例にとるなら、国際試合のタイトルマッチでは当該国のレフェリーはどんなに優秀でも対象から外される。クラブの試合でさえ、イタリアを例にとれば、戦う2つのクラブとは別の地域からのレフェリーが選出される。レフェリーがどこの出身かばかりか、通っていた学校がどこだったかまで話題になることさえある。
父親が息子の大一番を裁くという不自然なことが、ごく当たり前のようにまかり通ってしまっては、新日本プロレスの姿勢が問われる。タイトルが移動しなかったからいいようなものの、際どいカウントでの戴冠だったら、どちらも報われない。
「IWGPは遠い」という印象は免れず
1月4日、海野はオートバイに乗って派手に登場した。だが、見せ場はそこまでだった。
ザックが海野を実力でかなり圧倒しているのが見てとれた。試合が長かったのはザックが海野に付き合い過ぎたのだろう。15分か20分で終わっていい試合だった。もしかしたら、日本が好きなザックにある種の温情がわいたのかもしれない。新日本プロレスがその未来を託そうとしているレスラーを、簡単につぶしてはいけないという思いが試合に表れたのかもしれない。