F1ピットストップBACK NUMBER
「失敗を恐れずとにかく挑戦」日本人として15年ぶりのF1チーム代表就任、初年度にしてハースを再建に導いた小松礼雄の手腕
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2025/01/10 11:01
高校卒業後に渡英。大学と大学院で自動車工学を専攻し、モータースポーツの世界に足を踏み入れた小松代表
しかし、小松は担当スタッフを叱責することはしなかった。それよりも、なぜミスが起きたのか、ミスを再発させないためにはどうするべきなのかをオープンに話し合うよう求めた。そういったプロセスを繰り返した結果、チーム全体のミスが減っただけでなく、スタッフたちがミスを恐れずにチャレンジするようになり、そのチャレンジを全員でカバーするという文化が根づいた。気がつけば、離れている拠点間がより強い信頼関係で結ばれていた。
その変化を、ハースに7年間在籍したケビン・マグヌッセンは次のように指摘した。
「アヤオが代表になって一番変わったのは、チーム内のコミュケーション。本当に風通しが良くなって、みんなが意見を積極的に言える環境になったよ」
ADVERTISEMENT
24年のF1はいくつかのチームが開発でつまずいたが、ハースはシーズンを通して着実にマシンを進化させることに成功した。レース中のタイヤマネージメントも前年に比べて飛躍的に改善。中盤戦以降は常に4強を除く中団チームでトップ争いを繰り広げ、コンストラクターズ選手権では前年の最下位から7位に浮上した。いずれも、小松がチーム代表になったことの成果なのは言うまでもない。
結実した信念
チーム代表にならないかとハースから打診されたとき、小松は「もしかしたら結果を出せず、1年でクビになるかもしれない」という懸念が頭をよぎったという。しかし、「たとえクビになっても、自分が全力を尽くしてやったのなら、その挑戦は僕の中では失敗じゃない」という思いが勝った。
それから1年。小松は結果を出せずにクビになるどころか、その手腕は世界中のメディアから高く評価されている。それでも小松の信念は変わらない。
「やりたいことがあったら、失敗を恐れずとにかく挑戦してみる。たとえ失敗しても、それを活かして次に進めばいい」
チーム代表になって2年目、小松はハースで次に何を改革するのか。新たなチャレンジを楽しみにしているのは、私だけではないはずだ。