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「失敗を恐れずとにかく挑戦」日本人として15年ぶりのF1チーム代表就任、初年度にしてハースを再建に導いた小松礼雄の手腕
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2025/01/10 11:01
高校卒業後に渡英。大学と大学院で自動車工学を専攻し、モータースポーツの世界に足を踏み入れた小松代表
小松が掲げた目標とは、タイヤマネージメントを向上させることだった。23年までのハースは予選で速くても、レースでタイヤがもたずにズルズルと後退することが少なくなかった。そこで小松は、開幕前のテストから「欲張らずにタイヤマネージメントを向上させることに専念し、すべてのテストプログラムを見直すように」という指示を出した。それが目標を達成するための戦略だった。
新生ハースはテスト初日に最下位の船出となったが、それは想定内。結果に浮き足立つことなく、2日目以降もプログラムをブレずに淡々と消化していくスタッフたちを見て、小松は改革が順調に進んでいると実感した。
小チームゆえの課題
3つ目の改革案は、チーム内のコミュニケーションの改善だった。そこには、ハースというチームが抱える特殊な環境が大きく関係している。
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ハースはアメリカ籍のチームだが、イギリス・バンベリーにファクトリーを構えている。ただし、フェラーリと空力開発面で業務提携しており、イタリア・マラネロにも開発拠点がある。また、車両の開発においてはイタリアの大手レーシングカーコンストラクターであるダラーラと技術協力の関係にある。
必要に応じて外部に委託することでハースのような小さなチームでもF1で戦っていけるというメリットがある反面、マシンを開発・製造するにあたって密な連携をとれないというデメリットが生まれやすい面もあった。それはハースを長年悩ませてきた課題だった。
24年のモナコGPでは、それが悪い結果となって露呈してしまった。ハースはモナコGPに特別仕様のリアウイングを投入したが、DRS作動時にレギュレーションよりも開口部が広く開いてしまい、予選後の車検で失格となった。だがこれは、デザイナーがメカニックに新しいウイングを異なる方向でセットアップするよう伝えていれば、防ぐことができた事案だった。