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「泣きそうですもん…こんだけ時間が経っても」24年前の箱根駅伝“10区逆転”を許した駒大ランナーの胸の内…紫紺対決“伝説の逆転劇”を振り返る 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph by(L)Sankei Shimbun、(R)JIJI PRESS

posted2025/01/03 11:02

「泣きそうですもん…こんだけ時間が経っても」24年前の箱根駅伝“10区逆転”を許した駒大ランナーの胸の内…紫紺対決“伝説の逆転劇”を振り返る<Number Web> photograph by (L)Sankei Shimbun、(R)JIJI PRESS

最終10区までもつれた2001年の箱根駅伝での紫紺対決。順大・宮崎展仁と駒大・高橋桂逸の勝負の行方は意外なほどあっさりと決着した

 桂逸が苦痛に顔を歪めながらゴールしたのは、宮崎がトップでテープを切ってから2分55秒後のことだった。

 見ている者の心を奪った9区と10区のデッドヒート。だが、大会9日前の24日午後、レースの勝敗は決まっていたのかもしれない。

 謙介同様、現役を退いても当時と体重はほとんど変わらないという宮崎は、テレビ画面に映る澤木を見ながら「映像を通して見ても怖い」と笑った。

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「12月に入るとグラウンドの空気が一変するんです。ピリッピリしてくる。そんな中でやってたから強かったんだと思いますけど」

 実は、こんなことがあった。本番では4区を走り区間賞を獲得した野口英盛だったが、直前までは入退院を繰り返すなど慢性疲労から完調とはほど遠い状態だった。だが、12月中旬、澤木はそんな野口をこう叱咤した。

「いつまで下を向いてるんだ! 俺が走れるようにしてやる!」

 そして、そこから約10日間、温水プールを使ったメニューなど、野口のためにそれこそ分刻みの練習メニューを組んだ。

 迎えた24日の午後を、澤木が思い出す。

「24日の午前中までは、もうダメかなって諦めてましたよ。そうしたら午後3時くらいかな。野口を走らせてみたら、これならいけるかなという走りをようやく見せた。あの年は野口が使えなかったら大敗してましたよ」

順大の勝因は…「使いたい選手を使えたこと」

 宮崎はこう感嘆する。

「12月の頭まで本当にどうなるかわからなかった。でも澤木先生がそれをなんとかしてしまった。結果的に使いたい選手を10人使えたことが勝利につながったんだと思う」

 一方で、駒大の大八木は当時のメンバー表を見て改めて嘆息していた。

「この年は、正直、勝とうとは思えなかったんじゃないかなあ。力的にどうみてもうちが1枚足りなかった。陸上は番狂わせが起きにくい。力の差がはっきりと出ますから……」

 本番は劇的だった。ただ、そのドラマも脚本の大筋を変えるまでには至らなかった。

「あのときは、ちょっといい気持ちでクリスマスイブを迎えることができましたよ」

 十数年の時を隔てて、澤木の聖夜の勝利宣言が聞こえた気がした。

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