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留学生は“速くて当たり前”なのか?「どこかで特別視して…過度な期待をかけた」大東大の熱血監督が“愛弟子”留学生を箱根駅伝から外したワケ
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/12/22 11:03
今年の箱根8区で区間最下位とブレーキとなってしまった大東大のピーター・ワンジル。高校時代から指導する愛弟子を真名子圭監督はどう見たのか
指揮官の話を聞いて、小説『風が強く吹いている』の一節を思い出した。
アフリカ出身の国費留学生、ムサ・カマラは競技歴がないが、黒人留学生という肩書きだけで「ずるい」とやっかまれる。彼は、世間が思う留学生の走りに、自分の力が足りていないことに葛藤する。レベルや境遇は違えど、ピーターが抱えるものにも共通するところがあるように思う。
「自分でも力がないとわかっているのに、留学生という立場だけで『ピーターがなんとかしてくれる』『留学生なんだからこれくらいは走れるだろう』と高い物差しで測られてしまう。そこはかわいそうだなと思って見てきました」
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また、ピーターは高校時代から日本で暮らしているがゆえに日本人と同等、もしくはそれ以上に箱根駅伝への思い入れが強いのだという。
「うちのピーターは『全日本』という言葉を見てもあまり緊張しないんです。オールジャパンなのに。でも箱根駅伝は『日本人が大事にしているものだから絶対に失敗してはいけない』というプレッシャーが大きいのだと思います」
留学生だからこそ…箱根路で感じる重圧
確かに、ピーターの戦績を振り返ると、全日本では2年時に1区で区間新記録をマーク、3年時は6区で区間2位とハイレベルな走りを見せている。
しかし、箱根こそ最大の舞台。その重圧は、走りにも大きく作用していたようだ。2年時の箱根は2区、3年時の箱根は8区で区間最下位と失速。3年時は7区の小田恭平(4年)から7位でタスキを受け取ったが、11位まで順位を落とした。後半2区間で何とか盛り返し、大東大は9年ぶりのシード復活を遂げたが、歓喜の中で失意したことだろう。
「彼の設定タイムは、東海大の小松(陽平)選手の区間記録(1時間03分49秒)とほぼ同じで、そのくらいでいける練習はできていました。でも、精神的な部分で僕がフォローしきれていなかったのだと思います」
選手の不安定な精神状態に対して、本来の実力を発揮させるために指導者はどこまで助けになれるのか。それは難しいところだが、真名子監督は就任以降、ピーターだけの特別練習はさせずに、あくまで“Aチームの一員”として接してきた。