炎の一筆入魂BACK NUMBER
矢野雅哉の22球…日本新記録となった9月22日中日戦・第3打席の粘りに滲み出た、広島ドラ6遊撃手の生き様
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2024/10/21 11:02
涌井に22球を投げさせ、四球を選んだ直後の矢野。このとき何を思っていたのか
「カーブが必ずどこかで来ると思っていた。フルカウントからは投げにくいだろうから、(カウント)2-2のときにくるかなと。ただ、ここから全然、落ち球もカーブも全然来なくなった」
だが、百戦錬磨の涌井と宇佐見真吾の中日バッテリーは、そんな矢野の胸の内を見透かしたように極端な配球を続けた。5球目以降、投じた球種は直球とスライダーのみ。ここから矢野と中日バッテリーとの我慢比べが、始まった。
⑥スライダー 135キロ 中 ファウル
⑦直球 144キロ 外角高め ファウル
⑧直球 146キロ 内角中 ファウル
⑨直球 146キロ 内角高め ファウル
⑩直球 146キロ 中高め ファウル
球数は2桁10球に到達し、静かだったスタンドが徐々にざわつき始めた。涌井の投球間の間合いも長くなり、サインに首を振るシーンも見られた。
3年前との違い
追い込まれてからファウルで逃げる矢野の姿は、3年前にもみられた。
プロ入りしたばかりの21年の春季キャンプでは、粘ることしかできなかった。実戦では真っすぐに振り遅れたようなファウル、変化球には体勢が崩されたファウルでしのいでいた。広島キャンプを視察したある評論家は、そんな打撃に苦言を呈していた。
「あんな打撃させていたら打てなくなるよ。しっかりとスイングさせた上でのファウルとは、意味がまったく違う」
評論家が指摘したように、当時は当てるだけで精いっぱいだった。
「あのときは(プロの球威に)ついていくのに必死だった。今は振りに行く中で、(捉えるべき球とは)違うと思った上でファウルにできている」
継続してきたウエートトレーニングの成果もあり、スイングスピードが上がった。さらに今春キャンプで新井貴浩監督からもらった助言が矢野の感覚を大きく変えた。
「『真っすぐを泳ぐイメージで打ってみろ』と言われてから、感覚が変わってきたんです。ヘッドからも『普通に行っても打たれへんのやから、真っすぐ狙ったら真っすぐ振って帰って来い』と言ってもらえて割り切れるようになって、心に余裕ができた」