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藤井聡太14歳もプロ入りはギリギリ…獺ヶ口笑保人・吉池隆真新四段と“26歳で退会→女流棋士”中七海さんに元A級棋士が思う“三段リーグの飽和”
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byAsahi Shimbun
posted2024/10/06 06:00
獺ヶ口笑保人新四段と吉池隆真新四段。プロ棋士としての道を歩み始める
中も女流棋士への資格申請を将棋連盟に提出し、11月1日付で関西所属の女流棋士三段となる。
三段リーグは「狭き門」レベルではなくなっている
新約聖書に「狭き門より入れ。生命(天国)にいたる門は狭く、その路は細く、之を見い出す者少なし」という言葉がある。物事の真理を述べた箴言だ。
しかし、現在の三段リーグの状況は「狭き門」というより、正当な競争原理を超えて異常だと思う。24年度前期の三段リーグの人員は44人。四段昇段者の競争率は22人に1人ときわめて厳しい。今後もこうした傾向は続く。
約40人の三段の中で、最も有望株は15歳の山下数毅三段。今期竜王戦の6組ランキング戦で棋士らに6連勝し、決勝で藤本五段(19)に惜しくも敗れた。四段に推薦してもいいぐらいの実績を挙げたが、三段リーグではなかなか昇段できない(3位の次点が1回)。ほかに15歳の炭崎俊毅三段、16歳の高坂直矢三段など、10代の三段が13人もいる(さらに新三段が5人)。若い人たちの台頭はいいことだが、現在の制度では有望な若者が埋もれることになりかねない。
“藤井三段”も四段昇段は13勝5敗だった
私見では、三段が一定の人数以上になったら、四段昇段者を1人増やすべきだと思っている。これは三段たちへの個人的な同情論ではない。優秀な人材を多く求めることが、将棋界のためになるという考えによる。ある有力棋士も同意見だった。
17年にデビュー戦から最多記録の29連勝を達成した藤井聡太四段は、四段昇段を決めた三段リーグの成績は13勝5敗で、圧倒的に強かったわけではない。公式戦の対局で鍛錬して実力を伸ばしたのだ。
以前、私が四段昇段者の増員の考えをSNSに投稿した際のこと。「若い才能を入れて活性化すべき」「藤井聡太を倒すのは若い世代しかいない」という賛成論の一方で、「四段を増やしても弱い棋士が増えるだけ」「大半のファンはトップ棋士以外に興味はない」という反対論が出た。「棋士編入試験や次点2回で昇段で、新四段はすでに増えている」という声もあった。
将棋連盟は昔から「大家族主義」で、四段になった棋士に一定額の収入を保障している。原則として引退は65歳で、棋士生命は長い(田丸は66歳で引退)。勝負の世界なのに収入保障と長期雇用の制度になっている。四段昇段者の増員については、連盟の財政上の問題から容易ではないが――大所高所の観点から検討するべきだと、私は思っている。