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藤井聡太14歳もプロ入りはギリギリ…獺ヶ口笑保人・吉池隆真新四段と“26歳で退会→女流棋士”中七海さんに元A級棋士が思う“三段リーグの飽和”
posted2024/10/06 06:00
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
Asahi Shimbun
2024年度前期の第75回三段リーグ(24年4月~9月)が終了した。苛烈な昇段争いを勝ち抜いて棋士になったのは、医学生でもある獺ヶ口笑保人(おそがくち・えほと=24)四段と吉池隆真(よしいけ・りゅうま=19)四段。奨励会(棋士養成機関)時代の両者の成績や今後の目標などを紹介する。その一方で、年齢制限規定によって退会したのは紅一点の中七海三段(なか・ななみ=26)だった。四段昇段の競争率が22人に1人という三段リーグの厳しい現状、四段昇段者の増員の問題などについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】
奨励会に在籍しながら…二浪して医学部入学
まずは新四段の棋士2人を紹介しよう。
獺ヶ口笑保人四段は1999年生まれで、三重県熊野市出身。2013年6月に森信雄七段の門下で関西奨励会に6級で入会。当時10歳の藤井聡太(現七冠)は4級だった。昇進ペースは遅く、20年10月にやっと初段に昇段。そうした事情もあって棋士になるのは厳しいと自覚し、人の役に立つ仕事をしたいと考え、大学の医学部を目指すことにした。その後、二浪して群馬大学医学部に入学した。
23年2月に三段に昇段し、23年度前期の第73回三段リーグに参加したものの、最下位の5勝13敗だった。そんな辛い経験を自分の棋力を伸ばすバネにしたという。そして、3期目の第75回では中盤で8連勝して昇段争いに加わり、トップの14勝2敗で9月7日の最終日を迎えた。
「可能な限り棋士と医師の両立を」
獺ヶ口は将棋に集中するために、今期リーグはほかの三段たちの成績を気にしないようにした。最終日の時点でも「自分がトップとは噂で聞いていた」そうで、そうした平常心が功を奏したようだ。1勝1敗の成績により、1位の15勝3敗で四段昇段を決めた。奨励会に在籍したのは11年4カ月だった。成績不良で苦しんだ時期が長かったが、たゆまぬ努力によって花が咲いた。
現在、群馬大学医学部の4年生で神経科学を研究している。2年後には医師免許を取得し、「可能な限り棋士と医師を両立させたい」という。なお、伊奈川愛菓女流二段(33)は医師として活動し、森本理子女流2級(21)は名古屋市立大学医学部に在籍している。