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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
“代走のスペシャリスト”巨人・鈴木尚広コーチが見抜いた“大谷翔平56盗塁の秘密”…「おそらくイチローさんに近い感覚の、クレバーな走者」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2024/09/26 17:02
今季の大谷はなぜこれほど走れるのか。現役時代は盗塁の達人だった、巨人・鈴木尚広コーチにその極意を訊いた
確かに大谷の盗塁場面を振り返ってみると、スタートを切った後、4、5歩目くらいまでの足の動きが非常に細かく、そこから徐々にストライドが大きくなっていくのが分かる。
ピッチとストライドを兼ね備えた走り
「あの体格であればもっと大きく出やすいし、もっとストライドで行こうとするものなんですけれど、大谷選手は自分の回転軸をうまく使っている。あの大きな体を細かく使って、初速がものすごく速いです。そこでスピードを温めた上で一気に加速していく。どんどんストライドが伸びていって、スピードが上がったところでそのままスライディングできている。これは大きな特長だと思います。ピッチでもなく、ストライドでもない。 その両方を兼ね備えている走りですね」
さらに、リードからスタートに至る動きにも注目した。
「リード幅自体はそこまで大きくない。牽制を受けた時には帰塁できるリード幅を自分で保った上で、意識は常に二塁方向に向けているのが分かります。昨シーズンからMLBの牽制のルールが変わったことも大きく影響はしているだろうとは思いますが、それ以前に探求心が盗塁成功を後押ししているのだと思います。能力だけで勝負するのではなく、クレバーな走者っていうイメージですね、僕からすると」
投手の牽制を予測している
大谷がいかに「クレバーな走者」であるかが分かるのは、盗塁成功の場面だけではなく、相手投手から牽制を受け帰塁する場面に表れているという。
「牽制が来る、という前の段階から、大谷選手は体をほんのわずか一塁側に傾けているんです。この後で盗塁を企画して走り出す瞬間と比較すると、重心の置き方が明らかに違う。つまり、牽制が来るという予測がすでにできているんです。データや映像をかなり研究していて、その上で自分なりの判断ができているのだと思います。
ただ足が速いだけでは盗塁は決められない。短距離走と違って野球は相手があるので、駆け引きの中で自分がどうスタートするのかが全てです。盗塁に挑む瞬間には、相手に対する意識と自分に対する意識という二つの構造があって、両方の仕事をしなければいけないんです」