炎の一筆入魂BACK NUMBER
要因は投手の疲労のみにあらず…9月4勝16敗のカープが大失速で露呈させた「積極的な野球」と表裏一体の「綻び」
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/24 17:01
9月に入り、苦渋の表情を見せることが増えた新井監督
失速の理由を「疲労」と決めつけられることに、投手たちは納得していない。床田は広島投手陣の苦々しい思いを代弁する。
「防御率が良かろうが、勝ちがついていないとなったら『疲れている』とか言われる。でも実際、前半戦よりも1イニング多く投げられていないとか、1点多く取られているところはある。勝てない原因はそこだと思います」
試合に勝てれば見逃されることも、敗れることで露見する。
広島にとっては9回に2点差を逆転された9月11日の巨人戦がシーズンの分岐点となった。ハイライトは9失点した9回表だろうが、直前の8回裏の攻撃にも綻びはあった。
2死走者なしから矢野雅哉は右中間へはじき返した。二塁を蹴って、一気に三塁へ。巨人は右翼の浅野翔吾から二塁の吉川尚輝を経て、ワンバウンドで三塁へ。坂本勇人の巧みなハンドリングによる素早いタッチで攻守交代となった。
状況は2点リードの8回2死で、次打者には得点圏打率リーグ上位の勝負強い小園海斗が控える打順だった。さらに直前の2アウトは、いずれも捉えた当たりが相手の好捕や正面を突いた不運な形のものであった。
積極性と状況判断の狭間
「3アウト目の走塁死は、流れが変わる」
矢野が二塁を蹴った瞬間、「アカン」という表情がテレビ中継に映った藤井彰人ヘッドコーチは振り返る。矢野の試合に向けた徹底した準備、探求心のある姿勢を認めているからこそ改善できると思っている。
「矢野の足ならあそこで無理に三塁を狙わなくても、二塁からでも外野への当たりで本塁まで帰れるはず。もちろん今年のカープは1死三塁という状況をつくろうとしてきたから、あれが1アウトならいい判断。でも、2アウトだったから違う。矢野ならそれを頭に入れてプレーできると思う」
積極性を求める方針は、確かに若い選手の成長を促している。小園が攻撃的な打撃で中軸に定着し、走攻守で予想外のプレーを見せる矢野もチームを活性化させる存在となった。就任から2年、新井貴浩監督が推し進めるチーム改革は間違いなく正しい方向に向かっている。ただ同時に、浸透しつつある積極性や攻撃的姿勢の精度を上げていく必要もある。