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パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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posted2024/09/15 11:02

パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側<Number Web> photograph by Getty Images

8月3日、「性別騒動」の当事者として批判を浴びながら準々決勝を戦い終えたイマネ・ケリフ。その瞳には涙がにじんでいた

 ケリフが連続でパンチを当てると場内からは大歓声。試合はフルマークでケリフの完勝。勝者は相手コーチの肩を叩き、健闘を称え合った。去りゆく相手ボクサーを見守ったケリフはリング中央で力強く敬礼。両腕を下に広げ、歓声を浴びた後、思わず目から涙がこぼれ出た。

 ケリフはコーチに抱きかかえられるようにリングを後にする。その両拳で目元を拭い続けた。記者陣の前に現れた時には汗と涙を流しながら、少し憔悴した様子に見えた。ケリフはアラブ語の会話を主とし、フランス語は「少しだけ喋れる」という。英語での対応は基本なし。それでも肉声を拾おうと世界各国の100人近くの記者たちがスマートフォンやICレコーダーを差し出す。

 取材中、報道陣の後ろのほうから怒号のような声が聞こえ、「あなたはルールへの挑戦者なのか?」という英語の質問が投げかけられる。ケリフは下を向いて顔に手をやり、コーチが抱えるようにして、足早に去っていった。

試合終了後わずか数分で…IOC委員の「周到な声明」

 対照的にハンガリーのハモリは吹っ切れたような笑顔を見せていた。ケリフとの対戦についてはハンガリーのIOC委員バラス・フュルジェス(2032年ブリスベン五輪を担当)が登場し、声明を読み上げた。

「IOC委員として強く、勇敢に戦ったハモリの戦いを称えたい」

「私たちは抗議などをするつもりはない。ハンガリー代表選手団としてはIOCの判断に100%賛同しており、どんな状況であっても勇気をもって戦ったハンガリー選手を誇りに思う」

「もちろん、パリ五輪の後に今大会のボクシング競技はしっかり検証される必要がある。それは他の競技、種目においても同じだ」

 声明は試合からわずか数分後に発表されたが、その原稿は「試合中、いや試合後に準備しました」という。報道陣が殺到することを予期していたような周到さだった。関心の高さから対戦した相手国側も対応に追われ、試合内容以上に「性別騒動」の質問がひっきりなしに続いた。

【次ページ】 “問題の発端”IBAによる検査の「不透明な実態」

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