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パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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posted2024/09/15 11:02

パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側<Number Web> photograph by Getty Images

8月3日、「性別騒動」の当事者として批判を浴びながら準々決勝を戦い終えたイマネ・ケリフ。その瞳には涙がにじんでいた

ドナルド・トランプにイーロン・マスクも…著名人の批判

 2023年の世界選手権でも決勝に進出。しかし、準決勝でタイの選手に勝った3日後、決勝の楊柳(ヤン・リウ/中国)とのマッチの直前に、ケリフはリングに立てなくなる。アマチュアボクシングを統括するIBA(国際ボクシング協会)が主張する性別適格性検査の結果によって、記録自体が取り消されたのだ。IBAは世界選手権を開催してきたが、過去の不祥事等から五輪での競技統括団体から外され、今回の五輪はIOCと連携をとる「パリ2024ボクシングユニット」が管轄となっていた。

 対立の火種はパリにあった。そこに油を注いだのが、イタリア選手の棄権と著名人たちによる「トランスジェンダー批判」だった。

 8月1日、ケリフにとって初戦の相手となったアンジェラ・カリニ(イタリア)が開始46秒で棄権を申し出た。

「これほど強く殴られたことはなかった」

 カリニは試合後の挨拶を拒否し、リングの上で号泣した。イタリアのジョルジャ・メローニ首相は「男性のDNAを持つ者を女性の種目に参加させるべきではない」と母国ボクサーを擁護し、ケリフの出場に疑義を投げかけた。ドナルド・トランプ前米大統領は「私は男性を女性スポーツから排除する」とSNSで宣言。さらに『ハリー・ポッター』シリーズで知られるJ.K.ローリングが試合後の写真を引用し、「頭を殴ったあと、その女性の苦しみを楽しんでいる男だ」とSNSに投稿。イーロン・マスクも元選手の「男性が女性のスポーツに参加するのは適切ではない」という投稿に「その通り」と反応するなど、著名人が「トランスジェンダー」批判を展開し話題となった。

記者が見た涙の準々決勝「場内でブーイングは皆無」

「イマネ! イマネ!」

 8月3日の準々決勝、パリ郊外北東部のシャルル・ド・ゴール空港にほど近い「パリ北アリーナ」。ハンガリーのアンナルカ・ハモリとの準々決勝は異様な空気に包まれていた。

 記者席は試合のずっと前から満員。通路となっている階段に腰掛け、あたりを見渡すとアルジェリア国旗が四方ではためいている。そしてひっきりなしに起きる「イマネ」コール。SNSで確認できる文字による個人攻撃とは打って変わって、場内でブーイングは起きなかった。

【次ページ】 試合終了後わずか数分で…IOC委員の「周到な声明」

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