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パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側

posted2024/09/15 11:02

 
パリ五輪“ボクシング性別騒動”とは何だったのか?「誹謗中傷が殺到」「報道陣から怒号も」発端は“不透明な性別検査”…現地記者が伝えるウラ側<Number Web> photograph by Getty Images

8月3日、「性別騒動」の当事者として批判を浴びながら準々決勝を戦い終えたイマネ・ケリフ。その瞳には涙がにじんでいた

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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「人々がいじめをやめて、今後のオリンピックで同じような思いをするアスリートが出てこないことを願っている」

 ボクシング女子66kg級のイマネ・ケリフは、金メダルを獲得後の記者会見で明確に「被害」を訴えた。頂点に立ったものの、日本では「性別騒動」の当事者として話題となった25歳。アルジェリア出身のボクサーに何が起きていたのか? パリ五輪を現地で取材した記者が、スポーツ界を揺るがした騒動の顛末を詳しく伝える。(全2回の1回目/後編へ)

「村の少年のパンチを避けた」イマネ・ケリフのルーツ

 現在25歳のイマネ・ケリフは、母国アルジェリアを中心に熱狂的な支持を得ているボクサーだ。ユニセフの親善大使も務め、Instagramのフォロワー数は218万人を超える。これは日本で図抜けた人気を誇るボクサー・井上尚弥(約143万人)をはるかに凌駕する。

 アルジェリア北西部のティアレト県の農村で育ったケリフ。ユニセフのホームページでは幼少期がこう紹介されている。

「村の少年たちは、女の子には向かないとされていたサッカーで活躍する彼女に脅威を感じ、喧嘩をしかけてきました。皮肉なことに、彼らのパンチを避ける能力が彼女をボクシングの道へと導いたのです」

 リオ五輪を見て、大舞台でリングに立つことへのあこがれが大きくなった。強くなりたい。ボクシングをするには週1回、10km離れた隣の村までバスに乗る必要があった。だが、サハラ砂漠で溶接工として働く父親は女の子がボクシングをすることに反対。交通費を稼ぐためケリフは自らの手で金属のスクラップを売り、母親はクスクスを売った。

 16歳から本格的にボクシングを始め、国を代表する実力をつけて世界選手権に出場。2018年の世界選手権は17位、2019年は33位。世界の中で最初から強い存在ではなかった。東京五輪ではアルジェリアの女子ボクサーとして初めてオリンピックのリングに立つも準々決勝で敗れ、パリ五輪でのリベンジを誓う。

 パリに向けて覚悟を新たに2022年の世界選手権では銀メダルを獲得。さらに強くなるため、2023年2月からはアッサン・エンダムを育てたことでも知られるキューバ出身の名伯楽ペドロ・ディアスの教えを受けるようになった。

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