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「コーチにボロカス言われた」“衝突”を繰り返した堀江翔太がジェイミージャパンに重宝された理由「判断がないラグビーなんて、どこがおもろいねん」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/09/08 11:11
時に、コーチ陣と衝突を繰り返しながら日本代表のチームを牽引してきた堀江翔太(38歳)
2016年は歯を食いしばるような思いでパナソニック、日本代表、そしてサンウルブズのキャプテンを務めたことになるが、日本代表でも苦労は続いた。
「2016年の秋がジェイミー(・ジョセフ)になって初めてのテストマッチで、最初、11月に秩父宮でアルゼンチンに負けて、そのあとジョージアに遠征に行ったんですが、その試合の後、コーチとのミーティングでボロカスに言われたんです」
この時点では、コーチ陣が要求するものと、堀江のラグビースタイルに乖離があった。
堀江はとにかく気が利く。なんでもできる。求められればキックだってできてしまう。しかし、アタックコーチのトニー・ブラウンが求めていたのは「各々が自分の役割を全うすること」だった。
「2019年のW杯の時には完璧に理解できるようになるんですが、トニーの設計って、選手は自分の持ち場を離れたらあかんようになってるんです。たとえば、FW第1列はタッチライン際のプレーに参加してはいけない。目の前でジャッカルできるような状況だとしても、です。入ったらダメで、次のフェイズに向けて動き出さないといけない。僕って、目の前に起きることに対応できてしまうので、コーチ陣からすると、余計なことをしすぎる選手だったんです。だったら、そう言ってくれれば僕だって納得しますよ。そのときは、全否定されました(笑)」
“衝突”を繰り返すのに、なぜ重宝される?
スタイルをすり合わせるまでには、衝突が続いた。
「ミーティングが僕ひとり対コーチ陣全員みたいな感じだから、圧がすごかったですよ。2017年のサマーテストのアイルランド戦の時も、ボロカス言われました。僕がチェイスをサボっているとされる映像のクリップがわざわざ作られてて。このプレーでは、何もしてないみたいな。いやいやいや、これはこの選手がこう動いてるから、僕がここでチェイスに行くのは無理ですよ、と自分としては真っ当なことを言ったんです。そしたら、なんて言われたと思います? お前は、ラグビーを考えすぎだって(笑)。『はいっ?』って感じですよ」
必ずしも、首脳陣と堀江の関係は円滑ではなかったかもしれない。しかし、堀江は2019年、2023年とジェイミー体制を生き延びた。なぜか? 要求を100%、理解できるようになったからである。