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「コーチにボロカス言われた」“衝突”を繰り返した堀江翔太がジェイミージャパンに重宝された理由「判断がないラグビーなんて、どこがおもろいねん」 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2024/09/08 11:11

「コーチにボロカス言われた」“衝突”を繰り返した堀江翔太がジェイミージャパンに重宝された理由「判断がないラグビーなんて、どこがおもろいねん」<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

時に、コーチ陣と衝突を繰り返しながら日本代表のチームを牽引してきた堀江翔太(38歳)

「ダメ出し食らってた時は、判断がないラグビーなんて、どこがおもろいねんと思ってたんですけど、そのうち、自分が与えられた役割を完璧にこなすのが気持ち良くなってきて。車に例えるなら、ウィングの(福岡)堅樹や松島(幸太朗)は駆動系で、僕らフォワードはボディというか土台みたいなものですよね。そうしたパーツになることが、すごく面白くなってきたんですよ」

 これまで、何度も堀江の言葉を聞いてきたが、堀江はラグビーを表現の手段として考えるよりも、首脳陣が求めることに対し、最適解を出すことに極めて優れていたと思う。

 その要素のひとつにスクラムがある。

「スクラムなんて、ラグビーの一部っしょ」

 2023年のW杯、ニースで行われたイングランド戦。日本のスクラムは安定していた。記者席で見て、感激するほどに。堀江はスクラムコーチの長谷川慎と話し合いを重ね、『日本のスクラム』を完成に近づけた。

「2016年から、2023年まで慎さんのスクラムを組み続けました。最初、2016年に慎さんに話したのは、『自分に求められてるもの、教えてください。僕、なんでもできるんで、慎さんが求めるもの、言ってください』と話したんですよ。生意気に聞こえるかもしれませんが、本当にたくさんラグビーの引き出しを使えるようになっていたので」

 長谷川とは何度か衝突もあったという。

「最初の時期は、軽く言い合いなんかもしてました。僕が『スクラムなんて、ラグビーの一部っしょ』と言ったら、慎さんが『お前、何言ってんねん』みたいな感じで言われて(笑)。僕もそこで負けずに『いやいや、僕ら別にスクラム大会してるわけじゃないんで』と反撃して(笑)。僕は、今でもあくまでスクラムはラグビーの一部だと思ってます。でも、今のルールで行くと、勝つための心臓部分ではあるし、慎さんの言うことも理解できます。もしスクラムで大負けしてしまったら、試合自体が上手く運べなくなることをフロントローのひとりとして実感してますし、責任も感じてました」

 コーチによって、スクラムの組み方はまったく違う。誰をスクラムコーチに呼ぶかによって、戦略に大きく影響することは否めない。長谷川のスクラム理論は、独特のものだった。

「慎さんのスクラムは、フロントの3人は押す必要ないんです。押しちゃうと、崩れちゃうから。後ろから押してもらって、僕らはどれだけ良い姿勢を作って、こっちが生み出した力を相手にどれだけ伝えられるかが大切です。姿勢が良ければ、相手にプレッシャーを与えられるんで」

【次ページ】 完成に近づくスクラム、しかしチームに停滞感

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