甲子園の風BACK NUMBER
「馬庭君を中心に圧倒された」初戦で大社旋風に飲まれ…プロ注目右腕・今朝丸裕喜が振り返る“一瞬の夏” 試合後は涙見せずも「宿舎で主将が…」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph by(L)Hideki Sugiyama、(R)Fumi Sawai
posted2024/08/23 17:01
優勝候補の一角とされながら初戦で大社に敗れた報徳学園のエース・今朝丸裕喜。高校生No.1の呼び声も高い右腕はチームの敗北をどう受け止めたのだろうか?
センバツ後の春の県大会はベンチから外れ「ミニキャンプ」と本人が言うように、夏に向けての身体作りに没頭した。グラウンド横にあるトラックでVジャンを着込んでのランニングや、トレーニング、打者をつけてインコースぎりぎりに投げ込む練習を何度も繰り返した。投手育成を担当する磯野剛徳部長によると「夏にもう一度甲子園に戻るためにと、どんなキツいメニューにも今朝丸は最後までついてきた」という。
大角健二監督はそんな今朝丸を見て「やるべきことをやってきたので、この夏は怠慢なことをしない限りは何も(厳しいことは)言いません」と話していた。
県大会の初戦の舞子戦では、初回から長打を浴び、3回まで毎回失点を重ねて5回4失点。3回には相手打者の頭部に死球を与えるなど大荒れの夏の幕開けとなったが、大角監督はエースへ言葉を荒らげることはなかった。むしろ、試合後にこんな言葉を向けた。
「次の試合はしっかり修正してくれるでしょう」
兵庫県大会ではまさに「エースの投球」
その期待通り2度目の登板となった4回戦の星陵戦では5回を投げ、許したのは内野安打1本のみとほぼ完璧なピッチングを見せ、準々決勝の神戸学院大付戦は7回二死までノーヒットに抑え、スコアボードにゼロを並べた。
そして決勝の明石商戦。しぶとく食らいついてくる難敵をわずか5安打に封じ、公式戦初完封を挙げ、甲子園出場切符を手にした。
ただ、決勝戦後に驚いたのは、灼熱の下、110球を投げ切ったにも関わらず、表情に全く疲れが見えなかったことだ。
「あの時はまだまだ余裕がありました。このまままだ投げられるような感じでした」
それだけの積み重ねがあったにも関わらず、やはり夏の甲子園は別物だった。
センバツでは2大会、計8試合のマウンドを踏んでいるが、夏のマウンドは“初出場”。そのうえ今朝丸は決して立ち上がりが良くない方で、初回のピッチングには再三の注意を払っていた。それにも関わらず、俊足の1番打者・藤原佑に右前打を許し(右翼手の安井康起が二塁で刺しアウトとなったが)、2番の藤江龍之介に内野安打を許した。