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「イケメン開成生」と騒がれ…高校生クイズの大フィーバーに悩んだ田村正資の本音「受験生という立場で…」“お飾りのリーダー”幻想の正体
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/09/10 11:03
2010年の高校生クイズで準決勝の主役となったのは3年生の田村正資。メディアでの人気と自身の実力との乖離に忸怩たる思いを抱いていたという
なんとか時間ギリギリで導き出された答えは「140億年」。一方で、作業中は不安を抱えていた伊沢も、答えには自信を持っていた。
「知識として知っている宇宙の年齢とも大きくズレていない。検算の過程で小さな計算ミスはありましたが、求められているのは概算値です。大きな問題にはならないはずだった」
だが、他校の答えが開示されると、3人の頭には「これはまずい」という想いがよぎった。
旭川東と県立船橋の答えは「139億年」、浦和が「4.38×10(17乗)秒」。
浦和の答えはともかくとして、当然だが同じ答えが2校ある時点でそちらの信憑性の方が高い。また、開成の答えとの「1億年」という差は概算の計算過程で十分、起こり得るズレでもあった。「気にしなくていい」と判断した小さな計算ミスの積み重ねが、どこかでエラーを起こしていた可能性は否定できない。
単独正解に一縷の望みをかけた開成チームだったが、無情にも旭川東と県立船橋に正解のランプが灯る。
2問先取の準決勝で、1問ビハインドというのはそれだけで崖っぷちに追い込まれたことを意味していた。
崖っぷちの開成…それでも3人が焦らなかったワケ
ただ、意外にもこの時、3人に焦りはなかったという。伊沢はこう振り返る。
「あんまり雰囲気が悪くなることのないチームだったんですよね。それに『ヤバい』と焦ったところで状況がよくならないことは百も承知なわけで。残り2つで取り返せばいい、ということだけ考えていました」
田村もこう語る。
「実は前年も準決勝のサドンデスの計算でちょっと焦って、計算ミスというか方針を間違えてしまっていたので、『今年もやっちゃったな』という想いはありました。でも、そこで焦ることは無かったと思います」
最大の理由は、大場が前述したように、次の問題が「漢文」の可能性が高かったことだ。それだけ3人は漢文には自信を持っていた。
「やっぱり3人全員が得意でしたし、皆で解ける安心感はありました。あとは多少解釈の揺れがあるので数字を問われるよりもストライクゾーンが広いというか、『この範囲に入れれば正解だ』というのが見えやすいんですよね」(伊沢)
案の定、2問目は諸葛孔明の遺言である「誠子書」を読み解く漢文問題だった。
問われたのは、「孔明は志高く学ぶためにどんな心構えであるべきとしているか」。
チームの方針として、漢文に関しては「文章に無いことを書くのが一番ダメ」「他のテーマに関する部分を足すのも誤り」というコンセンサスがあった。あくまでも聞かれたことだけに的確に答える。人間、不安になると冗長な答えで誤魔化しにかかる。たとえ追い込まれた状況であろうとも、そのガイドラインを外してはいけないという想いが開成の3人にはあった。
結果的に、リードしているはずの旭川東と県立船橋はともにこの不安に搦めとられた。
不要な部分を足した冗長な答えになってしまい、ともに不正解。逆に開成と浦和が正解をもぎとった。
これで4チームが1ポイントで並んだ。