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「イケメン開成生」と騒がれ…高校生クイズの大フィーバーに悩んだ田村正資の本音「受験生という立場で…」“お飾りのリーダー”幻想の正体
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/09/10 11:03
2010年の高校生クイズで準決勝の主役となったのは3年生の田村正資。メディアでの人気と自身の実力との乖離に忸怩たる思いを抱いていたという
重いプレッシャーを感じていた2人に対し、前日に懸念の準々決勝を突破した大場は、この時点で妙に楽観的になっていた。
「準決勝が去年と変わらず勉強系でくるんだったらば、バランスを考えてもこのチームなら突破できるだろうと。決勝は伊沢がいればまず大丈夫でしょうし、この時点でかなり優勝が近づいた気がしていました」
伊沢と田村の2人は、優勝のためにはサクセスストーリーの主人公と裏回しを演じなければならない責務を抱えていた。一方で、大場はその意味では純粋なプレイヤーに徹すればよいという立場の違いがあった。加えて、生来の性格的にもどこか鷹揚なところがあった。
伊沢は「大場先生はなんか、超然としてるんですよね。器が大きいというか、全然焦らない。なんかズレてるんだよな(笑)」と苦笑する。いやが応でも緊張感が増してくる大会期間中も、ひとりだけ毎朝7時から8時に用意された朝食をモリモリ食べる健康的な生活を送っていたという。一方で、その泰然自若さは、窮地でチームを落ち着ける安定剤にもなっていた。
もちろん大場からすれば、それは決して根拠のない自信ではなかった。
「例年通りであれば、準決勝は最初に数学や物理の計算問題が来て、次に漢文が来る。まず、計算問題は田村さんが3年生で仕上がっている。加えて開成は、もともと漢文に強い学校なんです。中学の頃からかなりしっかりやってきているので、文系の私と伊沢なら、下級生とはいえそれなりに漢文はできるはずという自信はあった。もちろん、他の学校の受験生レベルまでいくかはわかりませんけど、ある程度は戦える確信はあったんです」
大場はそう謙遜するが、日本屈指の進学校である開成において「強い」とまで言える科目である。他の出場校と比べたとしても、1年の学習期間の差など、あってないようなものだっただろう。
その自信は大場なりの、チームメイトふたりへの信頼感の表れでもあった。
膨大な「計算問題」からスタートした準決勝
準決勝は、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんによる「ハッブルの法則と以下の条件を用いて、宇宙の年齢を計算せよ」という問題で幕を開けた。
一見すると難問のように見えるが、実は立式さえできればあとは単純な計算問題だ。開成チームも田村がすぐに解法を導くことはできた。
「もともと知識として宇宙の年齢の概算値は知っていましたから、そこから大きく外れる答えは除外できる。しかも、答えの数字も3ケタと決められていた。あとはひたすら計算をするだけだったんです」(伊沢)
ただ、その計算式の量が恐ろしく多かった。しかも、伊沢と大場の立場からすれば、基本的に田村に指示された計算を行い、その検算をすることがメインの作業になる。全体図がみえないままに解答を作ろうとする作業は、暗闇の中でひたすらもがくような恐ろしさがあった。