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「技術力が相当に高い」井上康生からの絶賛…物議判定にも動じなかった柔道・村尾三四郎“本当の評価”「斉藤立に一本勝ち」大学時代の転機
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2024/08/17 17:01
パリ五輪では個人と団体ともに銀メダルを獲得した村尾三四郎(23歳)
「技術は、寝技にしても立ち技にしても、レベルの高さは持っています。精神的な強さや試合運びといったあたりの経験値が上がってくれば進化した村尾になれると思います。突き抜ければ、(パリ)オリンピックに大きく前進すると思います」
転機になった大学時代「斉藤立からの一本勝ち」
10代から高く評価されていた村尾だったが、2022年の世界選手権代表を逃すなど周囲の期待からすれば停滞している感のある時期もあった。村尾が「転機」にあげるのは、東海大学主将として臨んだ2022年6月の全日本学生優勝大会だ。
団体戦の決勝で国士舘大学を迎え、勝負は代表戦にもつれ込み、村尾が対峙したのは斉藤立だった。100kg超級の斉藤との身長差は10cm強、体重差は80kgを超える。体格差ばかりではない。相手は最重量級を担うと目され実力も持っている。だが村尾は一歩もひかず、延長戦の末、抑え込んで一本勝ちをおさめたのだ。
ときに慎重になりすぎともみられた試合運びはそこにはなかった。勝つためには立ち向かう以外の選択肢はなかった。
「調子がよくなくても立ち直って修正しながら勝てるようになりました。殻を破った瞬間でした」
その後、調子を取り戻した村尾は、パリへの切符をつかむに至った。転機をつかめた理由は内面の変化にもあっただろう。
2019年に取材したとき、村尾はこう語っている。
「僕は『Be Real』という言葉が好きです。『本物になれ』っていう意味です。ただ結果を残すだけで終わったらつまらないなと最近思っていて、周りに影響を与えられる言葉が出せたり、試合によって影響を与えられる選手になれるのが本物なんじゃないか、と考えているんです。誰も行けない領域の選手になりたいですね」
五輪で実行していた“村尾らしい振る舞い”
もともとそう考えていた村尾が、東京五輪代表を逃したあとその意識をより高めた背景には、ひとりの柔道家の存在があった。73kg級でリオデジャネイロ、東京と連覇した大野将平だ。
「ほかの人と違った考えを持っていて、柔道の技に対してはもちろんですけど、それ以上に柔道そのものに対する考え方や自分との向き合い方がすごいです」
ただ勝てばいいわけじゃない。柔道家としてどうありたいか、そのモデルがあった。