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「技術力が相当に高い」井上康生からの絶賛…物議判定にも動じなかった柔道・村尾三四郎“本当の評価”「斉藤立に一本勝ち」大学時代の転機
posted2024/08/17 17:01
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
パリ五輪で鮮烈な印象を残した柔道家がいる。男子90kg級の村尾三四郎だ。
初めてのオリンピックで銀メダルを獲得。それは限りなく金メダルに近い銀メダルだった。
物議の判定でも、批判や不満は一切見せなかった
決勝は東京五輪金メダリストであり村尾が一度も勝ったことがないラシャ・ベカウリ(ジョージア)。だが村尾は臆することなく果敢に攻める。開始1分を超えたところで技ありを奪ったが2分40秒で技ありを奪われる。
残り30秒、村尾の内股。技ありかと思われたがそのまま続行。残り14秒、逆にベカウリの小内刈りにより合わせ技一本負け。場内に大きなブーイングが起こった。のちのちまで物議を醸すことになった判定だったが、村尾は批判や不満を一切見せなかった。
「ほんとうに金メダルだけを目指していたので悔しいです。自分にがっかりしています」
感情を高ぶらせることなく、テレビカメラの前では涙をこらえ、静かに語った。
初戦からしっかり組み手をつかみ切れ味のよい技を積極的にかけ、決勝でも強敵を相手にひかなかった姿勢。そればかりでなく、「待て」がかかれば機敏に戻り試合が終われば相手を称え、試合の前後、試合中に感情を露わにしない。それらが村尾三四郎という柔道家を強く印象づけた。
井上康生が絶賛「技のパンチ力、技術力が相当に高い」
パリは殻を破ってつかんだ舞台だった。
村尾が大きな脚光を浴びたのは2018年11月のグランドスラム大阪だ。男子では唯一の高校生として出場し、3位になったのだ。海外勢の層が厚い階級での好成績に、大会を見守った日本代表の井上康生監督(当時)は賛辞を惜しまなかった。
「技のパンチ力、技術力が相当に高いと思います。ここからさらに成長すれば東京オリンピックの代表に絡める逸材です」
しっかり組んで投げる柔道に期待が高まったことは、その後の国際大会派遣などにも表れていた。
井上監督の後を継いだ鈴木桂治監督も、パリ五輪代表が決まる前、村尾に寄せる期待をこのように表している。