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大阪桐蔭「夏の甲子園初」の完封負けはなぜ起きた?…笑顔の小松大谷エースが語った勝因は「飛ばないバット」と「超ポジティブマインド」
posted2024/08/15 17:12
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
JIJI PRESS
西川大智は美爆音に酔いしれていた。
一塁側アルプススタンドからは、お気に入りの曲であるCreepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』が奏でられている。
軽快なリズムに合わせ、小松大谷のエースが腕を振る。そのブラスバンドが、たとえ対戦相手である大阪桐蔭の応援だとしても、西川は自分に向けられているのだと思い込むようにし、嬉々として投げていたというのだ。
「大阪桐蔭って、吹奏楽もすごいじゃないですか。自分の好きな曲ばっかりだったんで、『すげぇ!』と思いながら楽しんでました」
試合の前半は高めのストレートで相手バッターの意識をそこへ印象付け、低めのスライダーで打ち取る。後半になると一転、それまで数球しか投げていなかったチェンジアップを多く織り交ぜることで大阪桐蔭打線に的を絞らせず、凡打の山を築いた。
「飛ばないバット」を織り込んだ大胆な攻め
このように西川が大胆に攻められるのは、今春から採用された「飛ばないバット」の恩恵もあるのだという。それまでならホームランだったような打球が失速してフライになることが多く、力ないゴロも増えた。
この事実を予備知識としているからこそ、西川は相手が「強く振ってきている」「コンパクトに当てにきている」とバッターの反応を観察するようになったと語る。
「飛ばなくなったってわかってるんで、『打たれてもしゃあない。シングルヒットならいいや』くらいの気持ちで投げられるので、本当に助かっています」
エースの好投に応えるように、打線も大阪桐蔭注目の2年生右腕・森陽樹から7回に2点を先制すると、8回にはエースの平嶋桂知からも1点をもぎ取った。
「相手のピッチャーは強いボールを投げるので、フライを少なくしようと伝えました」
野手陣に対し、監督の西野貴裕は「上げるな」と断定口調ではなく、「少なくしよう」と指示した。そんな逃げ道を与えたことについて指揮官は、笑いながら「うちは器用なことができるチームじゃないんで」と謙遜する。
飛ばないバットに変わり、器用なことができない。だが今年は、それを理解したバッティングを徹底できることが大きな強みである。