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柔道大国フランスは「超アウェー」だった? 帰国会見で聞いてみたら…阿部一二三、永瀬貴規らが現地の柔道人気に感じた「意外なホンネ」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/08/08 17:00
最近欧米のスポーツ現場でよく見かける「巨顔パネル」を振って応援するフランスの大観衆。後ろの人は見えるのだろうか
早くポイントを取らないと…
「早くポイントを取らないと負けるんじゃないかという不安も出てくるんですよ。(対戦相手への)指導も早いですしね。逆に団体戦では阿部一二三がフランスの(ジョアンベンジャミン・)ギャバと戦った時に、(ギャバへの)指導が3となってもおかしくないというところもあった。
やっぱり難しさはある……ただ反面で、すごくやりがいもあるんです。フランスのお客さんは、試合が終われば勝っても負けても大きな拍手をしてくれる。我々はアウェーで戦っているんですが、畳を降りればそういうことは一切感じなかったですから」
柔道女子48kg級で金メダルを獲得した角田夏実が振り返ったのは、準々決勝の死闘での光景だ。対戦相手はフランス人の25歳、シリヌ・ブクリ。会場を支配する地元贔屓の大歓声の中で開始1分、鮮やかな巴投げで一本勝ちをおさめた。
「応援の盛り上がりが違うなというのは会場に入った時から感じていましたが、フランスの選手と戦う時は、さらにすごい声援だったんです。でも自分がフランスの選手を投げた時、(会場の)雰囲気が落ちるのではなく、そこから盛り上げてくれた。みんな凄く柔道が大好きで見にきてくれているんだなというのを感じました」
自国選手に熱い声援を送りながらも、素晴らしいシーンには賞賛を惜しまない。男女混合団体のフランスとの決勝で、角田が2階級上の銅メダリスト、サラレオニー・シシケを同じく巴投げで下した後もやはり会場は拍手で包まれた。それはフランスの観客たちが柔道に対する深い知識と愛情を持ち合わせているからこそ生まれる光景だった。
柔道家へのリスペクトがある
男子81kg級では五輪史上初となる2大会連続の金メダルを獲得した永瀬貴規は、この団体戦での出来事をフランスでの感慨深い1シーンに挙げた。
「団体戦を終えて、(テディ・)リネール選手と対戦した斉藤(立)選手がメダルをかけられている時に一番の歓声があったり、(全ての)代表選手に対して讃えているなという場面を見て、すごく柔道が愛されていると感じた。柔道家に対してリスペクトがあるなと思いました」
まさに完全アウェーとなった決勝で、日本の選手たちはとてつもない重圧と戦った。3-3となってからの代表戦では、出場者の階級を決めるルーレットでフランス柔道の英雄・リネールが再び出場する90kg超級が選ばれ、勝負の流れは傾いた。最後は斉藤がリネールに一本負けし、団体戦としては2大会連続でフランスに敗北。帰国後の会見でも選手たちは一様に「悔しい」と口を揃えたが、勝敗とは別のところでこれほどまでの盛り上がりを生み出した「柔道大国」の熱気に心を打たれてもいた。