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「KOできないと言った人、誰ですか?」那須川天心はいかにして“覚醒”したのか? 世界4位を圧倒、鮮烈KOを生んだ“先の先”のメカニズム
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/07/22 17:19
7月20日、WBA世界バンタム級4位のジョナサン・ロドリゲスを圧倒した那須川天心。「倒せない」という声を封殺する鮮やかなTKO勝ちを収めた
試合後の会見に同席した粟生隆寛トレーナーも、天心のレベルアップに目を細めた。
「ただ単にまとめるのではなく、しっかりと(ガードが)空いているところにパンチをまとめられたかなと思います。それに今回は(攻撃しているときの)流れがずっと切れなかったので、相手に反撃させるスキを与えなかった。そこがすごくよかった。トップになればなるほど、流れが切れたタイミングを狙ってくる。それが切れなかったので、ずっと緊張感のある動きができたんだと思う」
「ボクサーっぽくないボクサー」那須川天心の本領
とはいえ、この一戦に向けて、全ての調整がうまく進んでいたわけではない。決戦2週間前には思い通りの動きができず、思い悩んだこともあったという。相手との距離を測るうえで、「短」「中」「長」の棲み分けがうまくいかなかったというのだ。
「そういう壁に当たって逃げる人も結構いると思うけど、そういうときでも僕はチームと一緒に突破してきたという自負がある。それがこの勝利の最大の要因だと思います」
天心は自分のボクシングを「ボクサーだけど、ボクサーっぽくない不思議なスタイル」と評するが、それはリング上でのファイトだけではなく、試合前後のパフォーマンスにも表れている。計量時には漫画『呪術廻戦』のポーズをとり、頬に「天」の字をロゴにしたシールを貼ることで、集まった報道陣に話題を提供していた。そうすることで記者は質問しやすくなるし、新たなニュースを提供しようという気にもなる。
試合後、あるボクシングライターは筆者にこう呟いた。
「天心の言葉を聞いていると、なぜか元気が湧いてくるんですよね」
ヒザを叩きたい気分になった。天心が掲げる「自分の試合を通して勇気を分かち合いたい」というミッションが、じわじわと浸透してきているではないか。こんなボクサーは今までいなかった。ポジティブなオーラをふりまきながら、“KOできるようになった異端児”はボクシング界に新たな価値観を構築するのか。