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「KOできないと言った人、誰ですか?」那須川天心はいかにして“覚醒”したのか? 世界4位を圧倒、鮮烈KOを生んだ“先の先”のメカニズム
posted2024/07/22 17:19
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Naoki Fukuda
「お待たせしました」
試合後の那須川天心(帝拳)はすこぶる上機嫌だった。無理もない。WBA世界バンタム級4位とランキング上は“格上”のジョナサン・ロドリゲス(アメリカ)を相手に、3ラウンド1分49秒で鮮やかなTKO勝ちを収めたのだから。
「KOできないと言った人、誰ですか?」
「本当に長い期間(約6カ月)が空いて、自分が倒すところをみんなが見たかったと思う。それを実行に移すために毎日毎日やってきて、今回はしっかりと倒し切ることができた」
7月20日、両国国技館。『Prime Video Presents Live Boxing 9』のセミファイナルとして組まれた、那須川天心にとって初の10回戦。プロ4戦目にして、天心は初めて対戦相手をキャンバスに這わせたうえで10カウントを鳴らした。
試合終了直後には、リング上からこれまでの鬱憤を晴らすかのような言葉を笑顔とともに投げかけた。
「KOできないと言った人、誰ですか?」
試合前に実施した単独インタビューで、天心は「掌返しをするならいま」と強気の発言をしていたが、それを裏付ける内容だった。一発も被弾していない顔は無傷のままで、「相手の攻撃がすべて見えた」と振り返った。
「自分のスタイルが、ようやく確立してきた感じがします」
今年1月のルイス・ロブレス戦と比べると、ボクシングテクニックに格段の進歩が見られた。KOにつながった左ストレートは伸びだけではなく、持ち前のスピードも活かされた一撃だった。
天心は意外にも「(左ストレートの)感触はあんまりなかった」と打ち明ける。
「倒そうと思って打ってないんで。すごい(力が)抜けてそこから攻めて、倒し切ることができた。今までだったら効かせたあとに(相手の様子を)見る感じだったけど、今回は流れが来たときにしっかりと狙っていけました」
勝負の分岐点は2ラウンド終了間際、天心が左ストレートでロドリゲスの腰をストンと落とさせた攻防だった。天心はダウンを確信して一瞬手を上げたが、ロドリゲスはダメージを負いながらも試合を続行した。