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プロ野球PRESSBACK NUMBER
「甲子園で投げたくないんか。野球辞めろ」誤解された阪神のエース井川慶が明かすホンネ「野村監督の教えで…」と高3時の「井川、大したことねえな」
posted2024/09/16 12:04
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph by
JIJI PRESS
エースは誤解されてきた。
阪神の大黒柱だった井川慶は自分を飾りたてることがなければ、威張ることもない。普段から口数が多い性格ではないのだが、勝てば勝つほど、口を閉ざしていった。番記者の問いかけに無言のまま、ロッカールームに消えた日もつづいた。初めてメジャーリーグ挑戦を表明したときから20年目の告白。いま明かす胸中からは覚悟の強さが生々しく立ち現れてくる。すべては重責を全うし、自分の人生を守るためだったのだ。
ヤンキースで叩かれても「何を言ってるかわからないですから」
アメリカに渡った2007年、デビュー戦でいきなり洗礼を浴びた。ヤンキースの一員として、4月7日のオリオールズ戦でメジャー初先発を果たした井川は1回に1点を先制された。2回もリズムをつかめない。押し出し四球を与え、走者一掃のタイムリーを浴びて4失点。その直後だった。投前へのゴロを捕り損ねると、しびれを切らしたヤンキースタジアムのファンからブーイングが起こった。
メジャーリーグは日本のように鳴り物入りの応援がない代わりにスタンディングオベーションやブーイングがある。井川も幾度となく容赦ない怒声を浴びた。だが、いつも表情を変えず、平然と振る舞った。
「基本的には外国人は僕が投げているとき、静かですよね。降板するときはブーイングをしているのでしょうけど、何を言っているかわからないですからね」
英語で罵られても理解できないから、気に留めない。筆鋒鋭いニューヨークメディアの記事を読むこともない。井川が「外国人」であることの数少ないメリットだろう。
こうもつづけた。
「僕は甲子園を経験していますからね。いろんな声が飛んできました。投げているときでも言われつづけて、それでも、1年ずっと投げつづけましたから」
練習の時まで「野球辞めろ!」「調子に乗るな!」
井川は阪神での9年間、甲子園を本拠地として戦ってきた。タイガースファンの一喜一憂ぶりは、その勝敗が人生に溶けこんでいるだけにすさまじい。ときには感情に任せて、選手に言葉の刃をつきつける人もいた。井川にはマウンドだけでなく、練習のときまで、辛辣な声が突き刺さった。
「野球辞めろ!」「調子に乗るな!」