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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「もう凍りつきましたよ」父・井上真吾トレーナーが語る井上尚弥・拓真“兄弟Wタイトル戦のダウン”「東京ドームには“魔物いるんかい”って…」
posted2024/07/22 17:09
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
父・井上真吾が明かす尚弥・拓真のW世界戦
開業して36年を迎える東京ドームに、プロボクシング4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥、WBA世界バンタム級王者・拓真の父であり、専属トレーナーである井上真吾は初めて足を踏み入れた。
1990年2月、オープンして2年のこの地でマイク・タイソンがバスター・ダグラスの前に沈んだとき、彼は19歳だった。中学を卒業して塗装業で働き、仕事に中途半端だった自分を卒業して妻・美穂さんとちょうど結婚に至る時期。格闘技好きだったとはいえボクシングにまだ出会っておらず、昼過ぎのテレビ生中継を見たかどうかその記憶すら定かではない。
2024年5月6日――、ボクシングとしてはそのとき以来の東京ドーム興行となる。特別な場所であることは理解していたが、特別な感慨を持つことはなかった。
「東京ドームに入って見渡したときに、これは広いなと思いましたね。ファンの人が熱狂してくれたら、凄い響き方になるんだろうなとも。でもそれ以上は特にないですね。自分にとってはどの試合、どの会場でも(トレーナーとして)やることは変わりませんから」
決戦前の「イベリコ豚つけ汁そば」
この日尚弥とは現地で待ち合わせし、拓真と地元・座間にある馴染みのそば屋で腹ごしらえしてから東京に向かった。「何かに縛られるのは嫌ですから」とゲン担ぎやトレーナーとしてのルーティンは一切持たないものの、決戦前にお気に入りの「イベリコ豚つけ汁そば」を食べるのがここ最近の恒例となっている。試合に向けた拓真との確認も、やりたいことはすべてやってきたために最低限でいい。対戦相手のWBA1位・石田匠(井岡)は伸びのある左ジャブを軸としたアウトボクサー。「ジャブは気をつけよう」くらいにとどめている。
拓真は2月下旬に強敵ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に強烈な右ボディーで9回TKO勝ちして初防衛を果たしたばかり。近年のボクシング界では異例とも言える2カ月半という短いスパンでの試合を本人に提案したのは父だった。
「東京ドームで試合ができるチャンスなんて滅多にないわけじゃないですか。おそらく大橋(秀行)会長のなかでは拓真はラインアップに入っていなかったと思うんです。試合間隔が短いという親心がありますから。だから(アンカハス戦の前に)5月の興行の話を会長から聞いたとき、拓真にそれとなく聞いたんです。もちろん強制はしないし、本人の意思次第。そうしたら“やりたい”ということだったので、(試合で)ケガや大きなダメージがなかったら加えてもらいたいと会長にお願いしたんです」
アンカハスを倒して覚醒したという周囲の見立ては真吾トレーナー自身、同じ思いだった。だからこそこの試合に対する期待値も大きかった。
いきなり1ラウンドでダウン「これ、効いてるな…」
いきなり予期していなかった事態が起こる。1ラウンド、石田の警戒すべきジャブをカウンターで食らい、ダウンを喫したのだ。