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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「もう凍りつきましたよ」父・井上真吾トレーナーが語る井上尚弥・拓真“兄弟Wタイトル戦のダウン”「東京ドームには“魔物いるんかい”って…」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/07/22 17:09
東京ドームで行なわれた井上尚弥と拓真兄弟のWタイトル戦を振り返った父・井上真吾トレーナー
「ほっこりしないように、とはずっと意識しています。試合が終わるまでは絶対に油断しちゃいけないので。練習でもジムについたらスイッチが入るのと同じで、試合会場についたら自然とそうなります。雑談くらいは多少あっても、気を抜くことはないですね」
塗装業に対する己のスタンスと重なる。20歳で立ち上げた「明成塗装」を大きくできたのも、いくつ掛け持ちしても一切気を抜くことなく、手を抜くことなく、そして一切の妥協なく真面目に、丁寧にこなしてきたからだ。「これは塗装でもトレーナーでも不動産業でも一緒」と父は言う。
布袋寅泰のギターが鳴り響くなか、東京ドーム、メインイベントの舞台に井上尚弥が立った。4万3000人による大歓声が真吾トレーナーの耳にも飛び込んできた。
「自分の距離じゃないときのネリの大振りのパンチだけは気をつけよう」
事前にそう確認していた第1ラウンド、プロアマ通じて一度もダウン経験のない絶対王者がネリに左フックを合わされ、キャンバスに倒れた。
ネリからダウンを奪われ「もう凍りつきましたよ」
歓声はどよめきに変わった。父はその瞬間を苦笑い交じりに振り返る。
「もう凍りつきましたよ。自分、いつもネットニュースとかも見ないんです。この試合に関するいろんな情報があって、自分のなかに入れたくなかった。何かしら考えがズレるのが嫌なので。純粋に自分の尺度で相手を評価して、尚弥にアドバイスをする。それなのに、みんな言うじゃないですか“東京ドームには魔物がいる”って。そんなの関係ないって入れないようにしたのに、尚弥へのパンチが当たったときに“魔物いるんかい”って、グワッて自分のなかに思い切り入ってきましたから」
怪物と魔物を見つめる目。だが動揺が走ったのはほんの一瞬に過ぎなかった。
<後編に続く>