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「もう凍りつきましたよ」父・井上真吾トレーナーが語る井上尚弥・拓真“兄弟Wタイトル戦のダウン”「東京ドームには“魔物いるんかい”って…」 

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/07/22 17:09

「もう凍りつきましたよ」父・井上真吾トレーナーが語る井上尚弥・拓真“兄弟Wタイトル戦のダウン”「東京ドームには“魔物いるんかい”って…」<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

東京ドームで行なわれた井上尚弥と拓真兄弟のWタイトル戦を振り返った父・井上真吾トレーナー

「パンチをもらった瞬間、フワフワとなってしゃがみ込むときに目が定まっていなかった。これ、効いてるなと感じたんです。でも立ち上がってからはしっかりしていました。そこから相手が(中に)入ってこれなかったのも、拓真がそうさせないようなオーラを出していたので安心しました」

 ラウンド間のインターバル、左手でトランクスをつかんでお腹に空気を入れて“開け閉め”しながら呼吸を整わせて落ち着かせるのが真吾流だ。アマチュアボクサー時代にこれで熱くなる感情を抑えられたため、取り入れてきた。拓真の表情を見ても、ダウンの影響は残っていないと確信できた。

 2ラウンド以降はジャブの差し合いを含めて王者が優位に立つ。相手の右はもらわずにワンツーを浴びせ、左フック、右アッパーとバリエーションに富んだパンチで攻め立てていく。ダウンを奪い返せなかったとはいえ、ジャッジ2者が118―109、1者が116―111と差をつけての3-0判定勝利であった。

勝利したものの「モヤモヤ感が残った」

 ただトレーナーからすれば、「モヤモヤ感が残った」という。

「テクニックでもスピードでも上回っていたし、ジャブの差し合いもそうです。もっとダメージを与えてダウンを取り返してほしい、そしてその流れで(KOに)つなげてほしいという気持ちが強かった。だからインターバルのときに、きつい言葉も掛けました。単に勝つだけでなくそれ以上のものを求めていたので。アンカハス戦のように、単調にならず自分から流れをつくり込んでほしかった。相手に付き合わないでサイドに回って打ち込むのはずっとやってきたことでもありましたから。拓真は、もっと(力を)持ってる。それを東京ドームでみんなに見てもらいたかったし、それを出させてあげたかった」

 拓真が自分のボクシングに対して真摯に向き合いつつ、開花につなげた努力は誰よりも分かっている。だからこそ単に勝っただけでは評価できない。モヤモヤ感も、きつい言葉も、高いレベルを判断基準に置いているからにほかならない。

拓真の試合後、尚弥のもとへ

 拓真の試合が終われば、今度はメーンで“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)を迎え撃つ尚弥のもとへ向かう。拓真が終わったら次は尚弥という流れは、彼らがキッズボクシングのころからずっと同じで体に染みついているもの。トレーナーもボクサーと一緒になって戦うためエネルギーはぎっしり使うとはいえ、ひと息はつかない。休憩する時間も要らない。軽食も取らない。敢えて自分のなかで張り詰めた空気を持続させる。もし自分がちょっとでも気を抜いてしまえば、それが彼らボクサーの集中力をそぐことにつながるという考えに立つからだ。

【次ページ】 ネリからダウンを奪われ「もう凍りつきましたよ」

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