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ボクシングPRESSBACK NUMBER
父・井上真吾トレーナーが明かす“井上尚弥vs.ネリ戦”の舞台ウラ…思わずニヤリとした“挑発ポーズ”「全然アリ、いいんじゃないかって」
posted2024/07/22 17:10
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
井上尚弥の“初ダウン”にも安堵感
東京ドームを包んだどよめきはまだ収まらない。
井上尚弥は1ラウンド、ルイス・ネリの左フックを浴びてダウンを喫しながらも、気を落ち着かせるようにカウント8で立ち上がる。コーナーから状況を心配そうに見守る父、井上真吾トレーナーの表情からも安堵感が広がった。
「本人が凄く冷静になっているのは分かりました。(再開して)自分のコーナーに詰まったときも『慌てて返さなくていい。溜めてから相手の打ち終わりにアッパーを返せばいいよ』と言ったら、ちゃんとそうしていたので問題ないなとは思いました」
そのアッパーによってネリが得意とする回転力のスイッチを押させていない。残り1分、追撃を許すことなくしのぎ切って絶対王者はコーナーに戻ってきた。冷静に収めた尚弥をコーナーで迎え入れた父は端的に指示を与えた。
「自分が言ったのは『1ラウンドは捨てていいから、1回リセットして建て直そうよ。丁寧にジャブを突いて組み立てていこう』と。尚弥が(ダウンシーンを)ビジョンで確認しているのも分かりました」
2ラウンドが始まると、既にネリの動きを見切っていることは理解できた。1ラウンドが硬かったというわけではない。あのダウンも、父からすれば決してクエスチョンマークではなかった。
「尚弥の距離で丁寧に戦っていたらもらわないはず。ただネリの勢いを止めるために、敢えて大きいパンチ、強いパンチを繰り出そうとしただけ。そうしておくとこれまでの相手なら、出てこなかったので。でもネリはああやって出てきて、悪い意味で噛み合っちゃって相手のパンチが先に当たってしまった。尚弥ももちろんそれを分かっているから、それ以降はしっかり対処できていました」
2ラウンドにはネリの打ち終わりに左フックを合わせてダウンを奪い返した。「特別に練習してきたものではなく、これまでも全般的にやってきたなかでの一つ」に過ぎなかった。ネリのパンチが当たる距離、角度に身を置かず、自分の射程範囲に捉えていた。それを丁寧に、入念に。1ラウンドに起こったまさかのダウンをとっくに帳消しにしていた。
思わずニヤリとした“挑発ポーズ”「全然アリ」
真吾トレーナーが心のなかで思わずニヤリとしたのが、4ラウンドの“挑発ポーズ”である。足を止め“当ててこい”とばかりに右拳で自分のアゴを軽く叩いている。