マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
偏差値70の進学校に183cmのプロ注「153km右腕」42人集結のスカウトが語った桐朋高・森井翔太郎のリアル評「身体能力と才能は超一流。でも…」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2024/07/13 17:00
偏差値70の進学校である桐朋高に現れた二刀流選手・森井翔太郎(3年)。大会場に集結したスカウトたちの「リアル評」は…?
彼のような非強豪校の選手の場合、この大会をオーディションと見なすのか、あくまでもトーナメントの甲子園予選と考えるか、考え方はふた通りある。
「今の私たち(スカウト)はどちらかというと自分の能力を発揮しながら、チームの一員としてどう機能できるのかの方を見てるんじゃないですかね」
別のスカウトの方は、こんな切り出し方をした。
スカウトが「ちょっとガッカリした」ワケは?
「正直、ちょっとガッカリしたんです」
エッと思った。
「いやいや、森井君自身のことじゃないんですよ。ほかの選手たちが、ほんとにごく普通の高校生たちじゃないですか。ノック見ても、試合見ても、森井君が刺激を受けそうなレベルの選手が1人もいないわけです。彼の場合、欠点があるとすれば、彼の能力じゃなくて、彼の置かれている野球的な環境。
投手の場合は、それでもいいんです。野手として見た場合、もしいきなりプロに行って、プレーしているレベルがガラッと変わった時のカルチャーショックっていうんですか。周囲の選手が自分より一気に上手くなり、強くなった時のショックがどうなのか。そういうことが、心配になったりするんです」
カルチャーショック。私自身に、強く思い当たることがあった。
都内の弱小高校野球部から、名門・早稲田大学野球部に進んだ1年生の春。そこが、まさに「カルチャーショック」そのものだった。
プロ野球のドラフト指名を断って入部した選手が2人、甲子園のスター選手に、その地区でのNo.1なんてのが、同期生にゴロゴロいた。練習はアップのランニングのスピードからして次元が違った。私の知っているダッシュの出力が、ウォーミングアップの走りだった。甲子園の強豪、常連で鍛えられてきた同期生たちは、涼しい顔でこなしていた。
まあ、ひるんだ、ひるんだ。上手くなりたいとか、試合に出たいなんて、一度も思ったことはない。文字通り、練習についていくのが、やっとだった。
「私自身、<田舎のプレスリー>でしたからね」
そう言って笑ったスカウトの方も、同じような「憂慮」を口にした。