マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
偏差値70の進学校に183cmのプロ注「153km右腕」42人集結のスカウトが語った桐朋高・森井翔太郎のリアル評「身体能力と才能は超一流。でも…」
posted2024/07/13 17:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Sankei Shimbun
七夕の府中(東京都)は暑かった。夏の予選取材には、2つの「勇気」が要る。
家を出る時、一気に押し寄せる熱気を「このやろー!」とばかり撥ね除ける勇気と、取材先の最寄り駅から外に出た時の、2度目の勇気だ。
この日の府中は、駅を出てたかだか10分ほどの球場への道を、何度引き返そうと思ったか。ムリもない。その翌日の府中、あぶなく40℃に達するほどの最高気温がテレビのニュースになっていた。
そんな炎熱の球場に、聞けば、日米14球団42人のスカウトたちを集めたのだから、桐朋高・森井翔太郎選手(3年・183cm86kg・右投左打)の魅力もただならぬものがあったはずだ。普段は、北海道や九州でしか出会わないスカウトたちも遠路やって来ていて、こちらも「ええっ!」とビックリしたものだ。
ここまで高校通算45弾、投げては最速153キロという。
超進学校から現れた投手、野手両面の才能を持った逸材。誰だって、強く興味を魅かれる存在に違いない。
以前見た試合は、球場に着いて間もなく終わってしまったので、見たうちに入らない。今日が初見みたいなものだ。
試合前、グラウンドに入ってきた桐朋高の選手たち。探す必要なし。高校生の中に、たった1人、プロ野球選手が混じっているような圧倒的なユニフォーム姿。シルエットが、彼だけ「オトナ」だ。
アップをしに外野へ向かって走っていく後ろ姿。全身の筋肉の躍動。足を後方に力強く蹴り上げていくエネルギッシュな動きだけでも、飛び抜けたバネの強さが伝わってくる。
キャッチボールの距離が伸びて、目測50~60m。伸びっぱなしのボールが、相手の頭上を軽くオーバーし、後方のフェンスにいくつも直撃している。無理もない……3年生の夏の初戦だ。グラウンドに出た途端、カーッとヒートアップして気負ってしまう。私にだって、覚えがある。
シートノックが始まって、やはり、普通の高校生の中に1人だけ大人がいるような、良い意味の「違和感」が、そのまま彼の大物感になっている。
深い位置から力を入れた一塁送球はちょっと「ふかし気味」になっても、塁間程度の軽いスナップスローの伸び感は、ダイヤモンドを小さく見せている。