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「歩くのも座るのも難しくなって…」屈強だったマサ斎藤の体を蝕んだパーキンソン病…逝去前日、トレーナーに遺していた“ある言葉”《七回忌》
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph by株式会社アンサンヒーロー
posted2024/07/14 11:02
パーキンソン病と闘いながら、懸命なリハビリを続けたマサ斎藤さん
「施設にウエートトレーニングの機材があったんですけど、マサさんはそれを見つけて『これをやりたい』と言ってこられたんですよ。本来は高齢者向けに5kgとか重くても20kgぐらいのウエートしか付けないんですけど、マサさんは『20kgじゃ軽すぎる。俺はいつも120kgあげてたんだから』って言うんです(笑)。リハビリ施設では、さすがにそこまでやらせることはできませんでしたけど、少しずつ負荷を上げていって、60kgぐらいまで上げてましたね。そんな利用者はマサさんだけです」
リハビリは地味で過酷なもの。モチベーションを保つことだけでも大変だが、ウエート器具を見つけてから、ウエートトレーニングは自ら率先して行っていたというから、現役時代からウエート好きで知られたマサさんらしい。
リハビリ施設の個室でも自主トレをし続けていた
「施設でのウエートトレーニングは普通、軽めの負荷で体の固さを取ったり、弱った筋力を少し上げるためのものなんですけど、マサさんだけはパンプアップ目的でやられてました(笑)。他の利用者の皆さんは、歩けるように、動けるようにリハビリするんですけど、マサさんの場合は強くなるためのトレーニング。だから他の方々は施設での集中リハビリに入る時『入所する』という表現をされるんですけど、マサさんは『合宿』と称してましたね(笑)。マサさんにとっては、トレーニングキャンプだったんでしょう。でも、ウエートをやることで気分を上げて、リハビリにも前向きになられていたので、それはよかったなと思います」
マサさんの“トレーニング”はリハビリの時間だけでなく、自室に戻ってからも続いた。
「マサさんは施設の個室に寝泊まりされていたんですけど、いろんなトレーニング器具も持ち込まれていたんですよ。いちばん驚いたのは、腹筋ローラーを床でやられていた時ですね。
入所されている方がベッドではなく床で横になっている時って、たいてい転んで立てなくなっている場合が多いんですよ。だからお部屋を訪ねた時にマサさんが床でうつ伏せになっていたので転んでしまったのかと思ったら、腹筋ローラーで自主トレ中だったので、びっくりしましたね(笑)。
施設内でそれだけトレーニングされていたので、他の高齢者の方々に『すごいですね~』ってよく体を触られて、デレデレになってましたね(笑)。マサさんは施設のヒーローでした」
「歩くのが難しくなり、座るのも難しくなった」
食事面でもマサさんは、他の利用者とは違ったという。
「マサさんは糖尿病をお持ちだったんですけど、一般の糖尿病の方は体格によっても違いますが、大体1日に摂取する食事の量は1600kcalくらい。でもマサさんの場合、特別に2500kcalだったんです。医師の管理のもと、体格や血糖値などの数値をもとに『ここまで増やしていい』ということで、食事以外に大好きなカルピスや、プロテインまで持ち込んで飲んでましたね(笑)」
こうしてリハビリ施設でもプロレスラーとして超人ぶりを発揮していたマサさんだったが、パーキンソン病は年々、その屈強だった肉体を蝕んでいった。集中リハビリは2014年からほぼ毎年、1カ月半にわたって行っていたが、亡くなった2018年に入所した時は、以前と比べて体の状態は目に見えて落ちていたという。