Number Web MoreBACK NUMBER
「ドイツ語でいきましょう」長谷部誠は日本人記者にドイツ語の質問を求めた…現地記者が見た“電撃引退会見”「最後にあと一言いいですか」
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byEintracht Frankfurt e. V.
posted2024/06/09 11:00
日本時間4月17日の20時30分に緊急で会見を行い、引退を表明した長谷部誠。通訳なしで行われた30分ほどの会見で本人が語ったこととは?
「サッカー選手の引き際というか、引退の仕方というのは人それぞれだと思います。ダビドに関して言えばチームのキャプテンで、でも家族と子どもと離れ離れで生活していたということがありました。ヒデさん(中田英寿)のように20代で引退をする方もいれば、カズさん(三浦知良)のように長くサッカーやっている人だっている。そのどれもが尊重されるべきものだと思っています。周りがどうこうではなくて、僕自身としては僕のサッカーに対する気持ちとか、僕を支えてくれているファン、家族、友達の思いとか、そういうのを背負って、総合的に決めたいと思っています」
あの時話していたように、長谷部は長谷部らしく、様々な視点で、様々な思いを丁寧に整理して、熟考して、そして決断を下したのだ。
初老の記者が「みんなで拍手を送るべきじゃないか?」
会見を終えて、広報が席を立とうとしたとき、長谷部は「あ、最後にあと一言いいですか?」といって、マイクを手に持った。長谷部が口にしたのはメディアへの感謝の言葉だった。
長谷部「選手とメディアの関係はとても難しいものがあります。でもお互いにいつもリスペクトをもって向き合うことができたと思っています。改めて感謝の思いを伝えたくて」
こみあげてくるものがある。周りを見るとみんな神妙だったり、穏やかに言葉を噛みしめたり。初老の記者が「みんなで拍手を送るべきじゃないか?」と声をかけ、みんなで大きな、大きな拍手を送った。いつでも礼儀正しく、オープンで、正直で、そして情熱的。みんな長谷部の言葉を聞くのが好きだった。だからだろう。この日の会見で地元メディアが質問を始める前に、何度も何度も長谷部に対して感謝とねぎらいの言葉をかけていた。
長谷部「最終節で6位を勝ち取って、みんなでお祝いしましょう」
長谷部はそういって最後を締めくくった。5月18日、ドイツへ渡った1人のサムライがプロ選手として最後の試合を迎える。今シーズンがどんな結末を迎えても、ファンは長谷部に対してあふれんばかりの感謝とリスペクトをもって、限りない拍手と声援を送るだろう。レジェンドは永遠だ。世代を超えて、長谷部の功績は未来永劫に語り継がれていくのだ。