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もしあのまま皐月賞に出ていたら…ダノンデサイルをダービー制覇に導いた横山典弘56歳“大英断のウラ側”「大事にすれば、馬は応えてくれる」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/05/27 17:01
日本ダービーを制したダノンデサイルと横山典弘。56歳の名手が皐月賞で下した“英断”が、最高の結果をもたらした
勝ちタイムは2分24秒3。
「最後はよく弾けてくれましたね。やっぱり、すごい能力がある馬だと、また確認できました」
そう話した横山は、2009年ロジユニヴァース、2014年ワンアンドオンリーにつづくダービー3勝目。今年デビュー39年目で、56歳3カ月4日のGI最年長優勝記録を樹立した。これは、昨年の有馬記念で武がつくった54歳9カ月10日を更新しての記録である。
「一番年長なんでね。息子たちだけじゃなく、みんなが祝福してくれたんで、とてもほっとしました」
運命を変えた“皐月賞出走取りやめ”という英断
前述したように、ダノンデサイルは、皐月賞を競走除外となった。スタート直前、横山が右前脚の歩様にわずかな異状を感じ、出走の取りやめを申し出たためだ。それに関して、安田師はこう話した。
「レース直前の跛行は軽いものだったのですが、競馬場の厩舎地区に戻ったとき、馬運車から降りるのを馬が嫌がるぐらい、はっきり症状が出ていました。右前脚の蹄冠の上のほうをぶつけてしまったようです」
栗東トレセンで検査を行ったところ、蹄冠部に打撲痛が認められたが、皐月賞2日後の火曜日から、もう運動ができるようになっていたという。
回復したから「軽症だった」で済むわけで、痛みのあるままレースに出ていたら、何らかの事故になっていたかもしれない。
そうした軽微な異変を確実にキャッチした横山のファインプレーだった。
「やっぱり、皐月賞、あのときの自分の決断は間違ってなかったんだな、と。皐月賞をやめていたから、今日があるのだと思う。ただ、ダービーも目標にしていましたけど、この先、5歳、6歳と走りますから、完成するまでのプロセスとしてとらえています。ああいうことがあっても、ちゃんと大事にすれば、馬は応えてくれる。馬に感謝ですね」
いつものように、淡々とした口調である。
勝って嬉しくないはずはないが、喜びを顔や言葉に出さないのにはわけがある。