酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
巨人ではなくDeNA復帰・筒香嘉智は「野球界の未来を憂う若き指導者」…活動を追う記者が伝えたい素顔「5年間の米国生活はムダではない」
posted2024/04/19 11:06
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Nanae Suzuki
筒香嘉智の、5年にわたる「長い旅」が終わった、
横浜DeNAベイスターズの主砲だった筒香は2019年、ポスティングシステムを利用してタンパベイ・レイズに移籍。以後、ブルージェイズ、ジャイアンツ、レンジャーズのメジャー、マイナー、さらには独立リーグ・スタテンアイランドでのプレー、さらに今春のスプリングトレーニングでの挑戦を経て、古巣DeNAへの復帰が決まった。
毎年、少年野球チームに熱いメッセージを
筆者にとって筒香は「単なる野球選手」ではなく、野球少年たちの未来を真剣に憂う「若き野球指導者」でもある。彼は毎年オフに、中学時代に所属した少年野球チーム「堺ビッグボーイズ」で、子供と保護者を前に熱いメッセージを語っていた。
2018年1月にはこう切り出した。
「今から僕がお話しさせていただくことは、野球界、子供たちのために、僕が日ごろから疑問に思っていることです。野球人口が凄く減っていると言われます。原因はいろいろ挙げられています。少子化も原因だと言われていますが、それよりも速いスピードで野球人口が減っているのが現状です。
その対策として、各地で野球教室や体験会が開かれているのを見聞きしていますが、野球人口がなぜ減っているのかをもっと掘り下げて、野球関係者も考えないといけないと思います。世の中が凄いスピードで変化している中で、野球界は昔と変わっていません。かなり多くのものが昔のままです。子供たちのために――と考えてみた時に最初に気がつくのが『勝利至上主義』です。
僕も小さいころに野球を始めましたが、野球を始めた瞬間から『勝たなあかん』と言われました。そして『こうやって投げるんや』『こうやって打つんや』『こうやって走るんや』『こうやってプレーするんや』と言われてきました」
「勝利至上主義」に疑問を抱いたドミニカでの日々
筒香が「勝利至上主義」に疑問を抱いたのは、2015年オフに、ドミニカ共和国のウィンターリーグに参加したのがきっかけだ。筒香をドミニカ共和国に案内したのは堺ビッグボーイズ代表の瀬野竜之介氏と、当時、JICA職員でのちに堺ビッグボーイズのコーチになる阪長友仁氏だった。
「ドミニカ共和国の人口は、日本の12分の1ですが、メジャーリーガーは140人くらい出ている。日本は昨年10人にも満たなかった。これはどういうことなんでしょうか?
ドミニカ共和国では指導者は何も言わずに子供たちを見守っています。そんな中で、小学生の子供たちがジャンピングスローやグラブトスを当たり前のようにやっています。指導者はそうしたプレーでミスをしても何も言いません。だから子供たちは失敗を恐れず、何回も失敗しながら新しいことにチャレンジしていきます。僕は、子供たちが何の躊躇もなくチャレンジしている姿を初めて見ました。
バッティングもとにかくフルスイングです。