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「フリー歴代最高の衝撃!」フィギュア新王者“4回転の神”マリニンが語る5回転挑戦「いずれは可能だと思っている」大好きな日本人スケーターは?
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byGetty Images
posted2024/04/03 17:00
世界選手権でフリー歴代最高点を記録して逆転優勝を果たした“4回転の神”イリア・マリニン(19歳)が単独インタビューに応じた
マリニン 6分間練習の時は、4回転アクセルの感覚がパーフェクトではありませんでした。そこから順番を待っている間は、迷いながら過ごしていて……。いざ氷に降りた瞬間に感じたのは、「今日は人生最高の演技か、逆に最悪の演技になるか、どちらかだ」という不思議な感覚でした。それで、「これは自分の心をコントロールできるかどうかが勝敗を左右する」と悟りました。1分弱の持ち時間を使って、呼吸を整え、自分を信じることだけに集中したんです。スタートポジションを取った瞬間に「やっぱりシーズン最後のこの試合で、自分のすべてを出し切りたい」と強く思いました。筋肉の記憶に頼ろう、4回転アクセルを入れよう、と決めました。
――4回転アクセルを成功し、次々と4回転を決めていきました。
マリニン 演技中は、観客の歓声がどんどん大きくなるのを感じて、そこからエネルギーを受け取りました。後半のステップシークエンスのあとに、ふと我に返る瞬間がありました。観客が見え、歓声が聞こえ、「ああ、いま僕は主人公なんだ」という感覚を味わいました。ジャンプが成功したかとかミスしたかではなくて、身体が反応するままに動いている感じでした。最後のポーズを取ったら『これは大変なことをやってのけてしまった!』と気持ちが爆発して、身体を支えていることが出来ずに氷の上に寝転んでしまいました。感動で、身体がいうことをきいてくれなかったのです。あんな感覚は初めてでした。
――それでは今季全体の進化を振り返って行きたいのですが、GPシリーズでは4回転アクセルを封印し、GPファイナルではショートにも4回転アクセルを入れました。どんな戦略でシーズンを過ごしてきましたか?
マリニン 昨年の世界選手権は、4回転6本に挑んでもミスがでて3位という結果でした。当時の僕としては快挙でしたが、さらに上を目指すには、まずいったんクリーンな演技をすることや、スケーティング技術そのものを伸ばすことに集中しようと思ったんです。GP2戦は、負担のかかる4回転アクセルはなくしたことで、良い演技ができました。GPファイナルに進出できたことが嬉しくて、もう一度4回転アクセルに挑戦しようと思いました。
手足にウエイトを付けて滑るトレーニング
――ジャンプの質やスケーティングの向上のために、どんなトレーニングをしたのでしょう?
マリニン 効果的だったのは、手足にウエイト(おもり)を付けて滑るトレーニングです。これは基礎スケーティングを強化する良い時間になりました。ウエイトをつけていると、左右の体重の掛け方や、体重移動のさせ方が、とても難しくなります。適当に振り回すようなターンをしたら、身体が振り回されて転んでしまいますからね。膝の曲げ伸ばし、エッジのイン・アウト、腰のひねり、体重の掛け方、すべてを正確に行わなければ、足がすっぽ抜けてしまいます。この練習によって、本当に正確なエッジワークや、パワフルなスケーティングを身につけることができました。
――ウエイトをつけてスケーティングするなど、聞いたことがありません。日本の古いアニメでは、そういったスパルタトレーニングをするシーンがあります。
マリニン ははは。たしかにアニメのスパルタトレーニングみたいですよね。でも、それほど強制的に毎日やるようなものではありません。役に立つとはいえ、脚に負担がかかるので、長時間やるとトレーニング効果が落ちるんです。筋力がつきすぎることもフィギュアスケートの場合は不必要なこと。なので、タイミング良くウエイトをやめて、普通のプログラムの通し練習に切り替えていました。あと、ウエイトをつけたままジャンプ練習はしません。ウエイトがあると遠心力が変わって振り回されるので、とても危険ですからね。
回転速度を上げるためには…
――ジャンプの向上に向けてはどのように取り組みましたか? 特に、ジャンプの回転速度がとても速いのですが、どのようにして身につけたのでしょう。